32:名無しNIPPER[saga]
2016/05/11(水) 00:03:13.88 ID:ahYklvJKo
「では、いざ往かん!(いってくるね!)」
「あぁ。……幸子なら、良い反応してくれると思うよ」
そして、期待以上のリアクションが返ってきた。
「あ、起きてたんですね……って蘭子さんじゃないですか! もしやずっとお二人で……って飛鳥さんが飛鳥さんでなくなってるぅ!?」
「否、あれなるは無垢な魂へと転生した我等が同胞、飛鳥よ!(違うんだな〜、あそこにいるのはいつもより素直な飛鳥ちゃんだよ♪)」
「もう、そうやって二人の世界でボクを仲間外れにするつもりなんですね! 蘭子さん、ずるいですよ!」
「ずっ……!? ず、ずるくないもん! 幸子ちゃんの方がずるいもん!」
「ど、どどどうしてボクが責められないといけないんですか!? 飛鳥さん、蘭子さんはどうしちゃったんです!?」
「とにかく入りなよ。そこでそうされてると……目立つだろうし」
「あ、そうですね……すみません。それより体を起こしてて大丈夫なんですか? 冷えちゃいません?」
「温かいよ。温かくなった、が正しいかな」
孤独が染みついて冷たくなっていたこの部屋も、これからは少しだけ温かくなっていきそうだ。
この温もりを……冷まさないためにも。
「我も一度、我が寝室にて闇夜を彩る正装に変えてこよう。刹那の間に回帰せん(私もそろそろ部屋に戻って着替えてこようかな。すぐ戻ってくるね?)」
「うん、いっておいで。まだボクも眠れそうにはないからね」
幸子と違い蘭子は自室で一息吐く間もなかったんだった。幸子が来てくれてボクを独りにさせずに済むと判断した、そんなところか。
蘭子がいなくなっても部屋の温かさは変わらなかった。幸子はどこに腰を下ろしたものかと悩んだ末、ボクのベッドの枕元になるべく近いカーペットの上にちょこんと座っている。
幸子を見下ろすような姿勢になり、ふと今朝のワンシーンが脳裏を過ぎる。ボクが自身の異常に気付いたあの時のことだ。
……今のままのボクだと、あることをつい聞いてしまいそうになる。同時にそれは聞きたくないものでもあり、矛盾を自覚した問いかけがいつしか芽生えていた。
「……飛鳥さん? ぼーっとしてますけど、無理はしていないですよね?」
「あ、あぁ。大丈夫だよ。眠くないのも本当さ」
心配してくれている幸子をよそに、ボクは衝動を抑え込む。
幸子は、そして蘭子は。プロデューサー……彼のことを、どう思っているのだろう。慕っているには違いない、けれど。
彼のことを語っていた蘭子は、そう、彼に頭をなでられていた時の幸子に似ていた。
……そして、ボクは。この胸のつかえは本当に微熱によるものなのだろうか。そんな状態で誰かのことを解ろうとしたから、自分のことが解らなくなっている?
明日の朝を迎えたら、エクステを付けるため鏡に映る自分と長く向き合わなければならない。そこに映し出された自分が、ボクの知らない誰かになってはいないかと、未知の不安に駆られている。
「……今日はなんだか、眠りたくないな」
「いやいや、たっぷり眠ってもらわないとあなたもボクも困るんですって」
何も言い返せなかった。
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