37:名無しNIPPER[saga]
2016/05/18(水) 21:32:54.66 ID:wEJbruLdo
「……そう、か。キミならボクの知らないボクをも、見つけられるのかもね。諦めの悪いキミのことだ。キミなら……フフッ」
果たして会話が成立しているのか、それはボクらにも解らない。吹き荒ぶ風のように捉えどころもなく、言葉を交えた感触だけを残していく。ボク自身が表現出来ない不安や迷いを彼が理解し、その上で回答をしたというのなら、それは本物の理解者なのだろう。
しかし理解者なんてものはいない。だからボクは、ボクらは解り合おうともがいてるんだ。
……ボクじゃなくなったボクを、見つけにきてくれる、か。そいつは楽しみだな。
幼い頃、似たような童話を読んだことがあったっけ。
「飛鳥ー、口元がニヤけてるぞー。やっぱり俺は痛いヤツだーとか思ってたり?」
「いや、この魔法が解けた方がいいのか、解けない方がいいのか……少し考えてるんだ」
真夜中の12時を刻限に魔法を掛けられた少女は、ガラスの靴を残して舞踏会を去った。
彼女と夢心地なひと時を過ごした王子様は彼女のことが忘れられず、誰とも知らない彼女を探したという。ガラスの靴が彼女を探し出す唯一の手がかりと信じて。
そんな都合の良いおとぎ話なんて、と切り捨ててていたボクはもうここにはいない。ボクらの出会いが奇跡のようなものならば、それは魔法といっていい。魔法の存在をボクは信じてみたくなっている。
魔法が解けてしまいそうになったらボクも帰らなくてはいけないんだろうか。帰るとは、つまりボクが元いた日常の世界へだ。
しかし彼の知らないボクを見つけてもらうためには、一度魔法が解けなくてはならない。ガラスの靴、の代わりになるものも無しに、だ。
以前、屋上で二人になった時。彼は彼のもとから去っていった人を思い出の中の住人にすることで受け止めていた。ガラスの靴も無ければ、それまでの自分ではいられなくなった彼女を追い掛けて何になる?
ボクの魔法も解けてしまえば、誰もボクを追ってくることまではしないだろう。たとえそれがボクを見つけてくれるはずの彼であっても。
……とすると、ボクは彼と出会えた「二宮飛鳥」でいるうちしかこの世界を共に歩んでいけないのか。
ボクは偶像として舞台には上がれど、残念ながらおとぎ話の中に生きてはいない。決められたストーリーを自分のペースで読み解くのではなく、終着点も解らない時間の奔流に流される世界で生きている。
魔法があったとしても、それだけは変わらない。
出会いがボクにとっての魔法なら、ボクに出来るこの世界への抵抗とは……魔法が解けて決別を迫られないよう、長針と短針が12の数字で重なり合うのを先伸ばしにすること。
つまりそれは、ボクが「二宮飛鳥」で在り続けること。
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