51:名無しNIPPER[saga]
2016/05/22(日) 00:11:58.60 ID:C7BIXhIso
「…………」
驚き、だろうか。彼の笑顔を奪い去ったボクの台詞は、怒りでも哀しみでもなく、代わりに彼へ与えたのは驚きの表情だった。
「そう、だよな。見ているだけしか出来ない俺が、何を言ってるんだろうな」
どうも真に受けてしまっている。
違うんだ、ボクはキミを責めるつもりなんてなかったのに。
「謝ってばっかりだな俺、すまん」
「……怒らない、の?」
「え?」
思い通りにいかないからと八つ当たりしているコドモを、彼は叱らなかった。叱るどころかそのコドモの稚拙な弁解すらも真剣に受け止めている。
彼は他のオトナとは違う、そう思っているけどそれはまだボクの勘でしかない。
彼のことを知り、彼と解り合おうとするのなら……今だ。きっと今なら彼の心に触れられる。
既にボクは彼を傷付けてしまっている。ならボクも、傷付くつもりで触れ合わなければ嘘ってものだ。
ボクは再び、彼に問う。
「キミの気持ちも汲まずに生意気なことを言ったボクを、怒らないのかい?」
「……。そんなこと、ないさ」
「そんなこと、とは?」
「飛鳥が言ったことだよ。ステージに上がることのない人間が、ステージに立とうとしている人の気持ちをどうしてわかるんだろうな。飛鳥の言う通りだと思ってさ」
「違う、ボクは本気でそんなことを言うつもりはなかったんだ。だからキミが、ボクの虚言を気にする必要はない」
「……俺さ、気が利かないってよく言われるんだ。飛鳥を安心させようとして掛ける言葉を間違った。そうだろう?」
「それは……」
奇しくもボクが彼にそうさせてやれなかったように、彼もまたボクを安心させられなかったことを悔いているようだった。
「飛鳥が熱出してどうしようってなった時も、幸子に言われたもんなあ。俺はいつも大事な時に限って何も出来ない、してやれない。そんな俺でもついてきてくれる皆を、輝かせてやりたいってのに……。上手くいかないな。俺は」
屋上で遠く空の彼方を眺めていた彼が、頭をよぎる。
常に正解を選択し続けられるわけがないのに、そうしたすれ違いの果てに彼のもとを去った人がいたのかもしれない。邪推であればいいのだが、理解し合えないまま別れてしまっては彼も心残りだろう。
寂しい思い出として彼の心に住み着くつもりは、ボクにはない。
ボクは彼と、解り合いたい。
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