52:名無しNIPPER[saga]
2016/05/22(日) 00:18:17.91 ID:C7BIXhIso
「……ねぇ。ボクは甘やかされたくなかっただけなんだ。あの二人と比べて、経験が浅いからって求めるレベルを下げられるのは、嫌だ」
「飛鳥……」
「でも、場数を踏まなきゃ得られないものもあるんだよね。その事実と向き合わずに、二人に追いつこうとしたボクを……キミは嗤うかい?」
「そんなことない! 俺、飛鳥がやる気だって聞いて嬉しかったんだ。二人を追い抜くつもりで取り組んでくれてるんだろう?」
……。
今それを真顔で問われるのは、堪えるな……。
だがこれぐらいで恥ずかしがってはいられない。
「まぁ、キミが用意してくれた舞台だ。ボクにとっての大事な……始まりになろうとしている舞台で、ヘマをしたくない。そのつもりでやってきているよ」
胸中を吐露することで、ボクの中で対抗戦フェスにかける想いが熱くなっていたことを、ボク自身の胸の奥から教えられた気分だ。
理由はいろいろあるけれど、最高の舞台にしたいと今のボクは思っている。
「……飛鳥。ありがとう」
「おいおい、どうして礼なんて口にするんだ。言うにしてもそれはまだ早いってものだろう?」
「ううん、言わせてくれ。いきなり大き過ぎる舞台へ上がらせようっていう俺に、ついに文句が出たと思ったらそれは俺が飛鳥を見誤っていたせいだった……。それでも、ついてきてくれるんだよな。俺に」
「キミ以外とこの世界、次の世界を歩んでいくつもりはないんでね。ボクの扱いを心得たいなら、ボクのことを理解ってもらわなきゃ。そしてボクは、キミのことを――」
いけない、歯止めが利かなくなってきている。まずは落ち着こう。
ひと呼吸置いて下手に口を滑らせないよう整えていると、彼の方からボクの発言の続きを引き取った。
「……そうだな。飛鳥って周りの評価に無頓着でクールに何でもこなしていくタイプかと思ってたけど、違うみたいだ。何を見てきたんだろうな、俺」
「…………」
心臓を中心に迸っていた温度が、急速に下がっていくのを感じた。
確かに、「二宮飛鳥」の仮面を被っている時のボクはそういうヤツだった。そう演じてきた。それが今はどうだろう。
彼がアイドルへ誘ってくれた「二宮飛鳥」と、今のボク。それらが乖離してしまったら、ボクに掛けられた魔法は解けてしまわないだろうか。
彼と解り合いたい。でもそうすることで、彼の中のボクが「二宮飛鳥」でなくなってしまったら……。
「飛鳥? どうした、固まってるぞ」
「…………何、でもない。立ち話は……終わりだ、事務所に戻ろう」
「ああ。そうだな。もしかしたらあいつらも戻ってきてるかもしれないぞ」
止まっていた時間が動き出し、彼が前へと歩いていく。
数歩遅れて今度はボクが彼の後を追った。
先を歩いていた時とは比べ物にならないほど、重くなった足取りで。
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