過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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8:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:27:59.94 ID:G1lrEIoLo



「だって、カワイイでしょう?」

 それが幸子の回答だった。
 概ね想定していたが……。

「こんなにカワイイボクがボクだなんて、もうカワイさしかありませんね! いやー、てっきりボクのカワイさに立ち向かってくるライバルがとうとう出現したのかと思いましたよ」

 頭が痛くなってくる。
 どういう過程を乗り越えてその解に到達したのだろう。

「飛鳥さんも、結構お似合いですよ。まぁボクほどではありませんが」

「似合うというのがどういう意味で使われているのかわからないけど、キミとボクでは違うとだけ言っておくよ」

 早速行われたレッスンの休憩の合間に、ボクらが”ボク”を使う理由の話になった。
 “我”である蘭子は当然除け者となってしまう。なんだか悪い気がして様子をうかがうと、蘭子も気になっていたのかボクらの会話に目を輝かせていた。

「ボクほどカワイイ子なんてそうそういないでしょうからねぇ。そりゃあ違いますとも」

 幸子の物事を測る基準にはカワイイかどうかがほぼ必ずついて回ってくる。
 話が通じていない時があるのはボクらが原因ではなくむしろ幸子なのでは、と思わなくもない。ある意味で。

「なにやら不服そうですね? では飛鳥さん、あなたはどうして”ボク”なんですか?」

 ふと、息が詰まる。
 セカイが揺れる。

「……そうだな。一言でいえば、記号に惑わされがちな世界でより正確にボクという存在を示すため、かな」

 全然一言にまとまらなかった。まぁ、お約束ってことで。
 この世界で生きていれば誰もが幾度となく味わってきたはずだ。男だとか、女だとか、コドモだとか、オトナだとか。そういった単純な記号でしか判断せずに測られることが、往々にしてある。
 ボクがボクであることに見向きもせず、ボクが何者かを決定しようとする行為は。
 「二宮飛鳥」という存在を否定しているのと同じだ。
 ボクがボクと自称するのも、世界への抵抗といえなくもない。英語と違って一人称はたくさんあるんだ。女だから私、それではつまらない。

「?? はぁ、苦労されてるんですね?」

 いまいちピンときていないようだった。
 無理もないか、幸子ほど自我を剥き出せるヤツなら、誰の目にも同じ輿水幸子が映し出されることだろう。
 と、思い至ったところで、そんなことはあるはずないとボクの胸の奥が訴え出した。
 自戒する。ボクもまた、輿水幸子という記号だけで幸子を判断してしまってはいないか?
 ……危ない、ボクもまだまだだ。

 人のことなんて簡単に解りやしない、要はそれに尽きる。



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