過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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9:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:32:48.22 ID:G1lrEIoLo

「まぁ、そこを言うとプロデューサーはそこいらのオトナとは違うみたいだ。人を見る目というか、記号に惑わされない力がある。ボクはそう思うね」

「……我も同意しよう。その言の葉に内包された言霊を」

 傍観者となっていた蘭子がそこでようやく口を挟んできた。
 思い当たることがあるのか、目の輝きはなりを潜めてしまっている。

「我が友の導きがなければ、我が我を謳歌することも難儀なものであったろう」

「むむむ……? 我が友ってプロデューサーさんのことでしたっけ?」

 うむ、と首肯する蘭子。

「プロデューサーさんといえば、ボクたちをありのままにさせてますよね。知ってますか飛鳥さん、プロデューサーさんの机の下ではキノコが栽培されてたり、セーターが編まれていたりするんですよ。それだけ好きにさせておいてボクのカワイイワガママはあんまり聞いてくれないのは納得いきません!」

 プロデューサーという三人が共通できる数少ない話題のおかげか、幸子も饒舌になっている。
 ……え? キノコ? セーター? 何を言ってるんだろう。

「それはまぁいいんですけど、プロデューサーさんはボクが”ボク”っていうのを聞いてこない珍しい方でしたね。どういうわけかよく聞かれるんですよねぇ、いろんな方に。どうしてでしょう?」

「……どうして、か」

 本気で疑問に感じている幸子が、ボクには違う生き物に見えた。
 世界への抵抗だなんて、それは一定の常識ってヤツをわきまえているから自覚する行為だ。わかってるさ、女がボクというのは普通はおかしい。普通……嫌いな言葉だ。
 しかし彼女は違うらしい。カワイければいいじゃないかと心から思っていて、だから常識に、普通に、囚われたりはしないのだろう。
 ボクとはあまりにもかけ離れた価値観。でもそれが、ボクの目には眩しく映る。

 ……もともとボクらは違う生き物だ。さっき自分でそう発言したばかりじゃないか。輿水幸子と二宮飛鳥は違うんだ。
 ボクらは、違う。
 違うから――解り合えない?
 プロデューサーのことを思い浮かべる。彼とボクは、どうなのだろう。
 彼とボクは――解り合えている?

「我が友の持つ『瞳』の魔翌力を以てすれば、真実を照らす灯火を翳すことなど造作もない!」

「だからわかりませんってば、蘭子さんが何を言いたいのか」

「えー!? 幸子ちゃんにもやっと伝わってきたと思ったのに……はうっ」

「それです、蘭子さん! やればできるじゃないですか、さてはボクをからかってます?」

「ち、違うのー! 我は……そう、我の真なる姿は混沌より舞い降りし堕天使。仮初の姿にて虚言など弄さぬ!」

「蘭子さんが堕天使ならボクは天使そのものですね、なんといってもこんなにカワイイんですからそうに決まってます!」

「むぐぐ、堕天せし我を裁かんとする刺客がこれほど間近にいようとは……!」

 二人が和気藹々とする中、ボクはそう遠くない記憶を静かに辿っていた。ボクが自分をボクと呼ぶようになった頃、それはいつだったか。

 世界の在り様に気付いてしまった時、
 代わりにセカイを望むようになった時、
 ……エクステをつけるようになった時?

 いずれも正しくて、どれも違うような気がした。



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