92: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/11(土) 23:11:18.77 ID:2YZyh0JIo
「……ごめんな」
あと少し、あと少しと心の中で唱えている間に彼が痺れを切らしたようだ。
ここまでボクが何の反応も示さなかったから、いたたまれなくなったのかな。
せめてボクに声の震えない自信がつくまで待ってくれてもよかったのに。
仮面はまだ、手放したままだ。
「……。なに、が?」
「飛鳥が何かに悩んでいるのは知っていたのに、俺はまた……」
「いいさ。ボクも……ボク自身に驚いてるくらいだから。それに、キミはこうしてこんなボクを迎えに来てくれた」
「それ、なんだが」
面と向かって話したいのかボクの肩を抱く腕が離れ、代わりに両肩へ手が置かれた。
彼の方へ振り向かせる力が加えられないよう、左肩に置かれた手にボクの右手を重ねる。ボクはまだ顔を合わせられるほど落ち着いてはいない。これから、聞きたくない言葉も出てくるかもしれないんだ。
ボクの意図を汲んでくれたのか、彼はそのままの態勢で続けた。
「実は、あいつらに怒られてな。どうして一人で戻ってきた、って。どうしたらいいのか分からないって答えたら、こうしろって教えてくれたんだ。名前を呼んで抱き締めてやれってさ」
……。
迎えに来たのは、肩を抱き寄せてくれたのは、キミの意思ではなかったの……?
「……そういうことは、黙っているものじゃないのかい?」
「嘘を吐きたくないんだ。ほら、俺って大事なところで間違えるだろ? 今さら格好つけて……俺という人間を誤魔化したくない」
オトナは平気で自分のために嘘を吐く。
だからボクは、キミのそういうところも気に入っている。
以前キミが下手な嘘を吐いた時も、自分のためじゃなかったよね。
あの時は、おかげで寒くなかったよ。
「飛鳥のことも、俺はわかった気になってついあんなことを言っちまった。わかるために努力するなんて言っておいてこれだ」
「そんなこと、ない。キミはボクを言い当てていたんだ。解り合えてる気がして、嬉しくすら思ったよ」
「それでも……それならきっと、前に飛鳥が言っていた俺の知らない飛鳥を傷付けてしまったんだ。……思い上がり、かな?」
仮面の下にずっと隠してきて、ようやく浮き彫りになったボク自身。
ボクでさえ気付いたばかりのボクを理解しろなんて無理に決まっている。
……そうフォローしたいけど、打ち明けていいものなのだろうか。弱いボクを晒してしまえば彼は「二宮飛鳥」の認識を改める。
こんなヤツをスカウトしてしまったのか、と彼を落胆させたくない。
彼と出会えた奇跡とも呼べる魔法を、自ら解くなんて、ボクには……。
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