34: ◆ULuwYLs/ds[saga]
2016/05/05(木) 22:45:43.29 ID:xJU0s9Q00
翌朝、昨日と同じようにレッスン室の扉を開け、準備を始めます。
ふと、後ろの方から扉の開く音が聞こえたので慶さんが来てくれたのかと思い、振り向くと、文香さんがおずおずと体を半分だけこちら側へ出し、私の方をじっと見つめていました。
「えっと」
「……えっと」
どうすればいいのか分かりませんが、きっとレッスン着でレッスン室に来たということはそういうことなのでしょう。
「良ければレッスン。ご一緒しませんか?」
「……一緒に……ですか?」
少し、文香さんの表情が明るくなった気がします。
昨日の今日ということもあって何やら文香さんとは縁を感じますね。
ひとまず、緊張をほぐす為にも体を動かしましょうか。
お互いに鏡を見ながら体操を始めます。
「……こうして私は、日々レッスンをしていますが」
文香さんが真っすぐ鏡を見つめながら唐突に口を開きます。
「あまり……アイドルになれたという実感がわきません」
「鏡の前の自分は、こうして、無表情で……不器用で」
それはまるで、このままで良いのだろうかと自分に問い掛けている様でした。
私にもそれが合っているのか間違っているのかは分かりません。
ただ一つ言えるのは……
「何度も繰り返して、少しずつだけど着実に前進していく……それが私の流儀なんです」
焼き物の形成には、基本となる土台が重要ですから。
少しだけ、文香さんの表情が柔らかくなりました。
「そうでした……物語も、ページを飛ばして読んでしまっては……見える景色に意識が追いつかなくなってしまいます」
「何事も基本ですね」
「ええ……基本は大切です」
そう言うと文香さんは一つ、深呼吸をしてからこちらに向き直ります。
「……肇さん」
「はい! なんでしょうか?」
「……レッスン。よろしくお願いします」
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