過去ログ - 荒木比奈「最初の一歩が踏み出せなくて」
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名無しNIPPER
[sage saga]
2016/05/26(木) 23:41:13.02 ID:SxnKCCpl0
「比奈さんは、アイドルにならないんですか?」
美波に問いかけられ、比奈は手にしていたコーヒーカップを落としかけた。
つい先ほどまで3人で談笑していたが、Pは仕事があるからと先に店を出てしまい、今は比奈と美波が残されていた。
初対面の2人だが、美波は人懐っこい性格であり、比奈もまた人見知りをしない質なので、穏やかな雰囲気で会話を楽しんでいた。
「Pさんよく言ってますよ。荒木先生がアイドルになってくれたら良いのにーって」
「あの人は……本人がいないところで好き勝手言ってくれるっスね」
一口だけコーヒーを口に含んで、テーブルにカップを置く。温くなったコーヒーからは、もう湯気も上がっていない。
「……アタシには無理っスよ。見ての通り、日陰の人間っスから」
そう言って比奈は自虐的に笑った。
「比奈さん可愛いし、そんなことないと思いますよ」
「うぅ、お世辞でも面と向かってそう言われるのは照れますね……」
ぽりぽりと頬を掻いて、
「……でもやっぱり、そんな華やかな場所は似合わないっスよ」
もしかしたらアイドルに――Pと出会ってからそう考えたことは少なくない。
ただその度に、頭のどこかから、お前には無理だと言う誰かの声が聞こえてくる。
そして、美波と話してみて――その想いは一層強くなった。
――アタシはこうはなれない。
アタシはこんなに綺麗じゃない。
アタシはこんなに溌剌としていない。
アタシはこんなに輝いてない。
アタシは――
「社会の片隅で、コッソリ生きていくのが性に合ってるっス」
――アタシは、アイドルにはなれない。
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