74:名無しNIPPER[saga]
2016/06/01(水) 00:25:44.85 ID:49W9hqJ1o
◇ ◇ ◇
日曜日、商店街は案の定の混み具合だった。
美優「蘭子ちゃん、体の調子はどう? どこか具合が悪くなったりしない?」
蘭子「ううん、平気……」
美優に手を繋がれて、歩きながら蘭子は答えた。
しかし正直なところ、あまり平気そうには見えなかった。
疲れているとか顔色が悪いという意味でなく、蘭子は家を出てからというもの、妙にどぎまぎして挙動不審なのだ。
楽しさと緊張、驚き、それらの入り混じったような表情の変化は、彼女の興味が目まぐるしく動いている事の証拠に他ならなかった。
つまり、今彼女は好奇心の虜になっているのだ。
そして楓が考えるには、この蘭子の心にはきっと"緊張"の占める負担が大きいに違いなかった。
無理もない、と楓は思った。
なにせ外の世界は蘭子にとっては知らないことだらけなのだから。
まず、交通ルールを知らない。
もちろん知識としては教えていたのだが、実際に車が走っているのを目の当たりにした蘭子は、その騒音、大きさ、速さに一瞬すくんでしまうほどだった。
また楓が懸念していた通り、蘭子は道行く他人を過剰に怖がった。
早朝に家を発った直後、近隣の馴染みの住民から挨拶された時、蘭子はサッと美優の影に隠れてしまったのである。
その怯えているような蘭子を見た楓と美優は、これでは無理かもしれないと諦めかけた。
しかし先ほども言った通り、蘭子の心にあるのは恐怖だけではなかった。
彼女が緊張したり怯えたりするのは、そこに好奇心という前向きな動機がある証しなのだ。
現に、蘭子は道に生えている草木や花、遠くに見える景色、通りかかる店、家屋、匂い、色、あらゆる物に興味を示し、楓たちを質問攻めにした。
そのせいで楓と美優は哲学的な回答に頭を悩ませたりもした。
蘭子はいつになくよくしゃべったが、人とすれ違ったりする度にふいと黙ったりした。
初めて駅で切符を買い、改札を通って電車に乗る時などは、あらかじめ予習していたにも関わらず、その全ての過程で緊張のあまりつっかえたが、それでも蘭子の表情には期待と興奮の色が見え隠れしていた。
そんな蘭子を見ていると、楓も美優も、外へ連れてきて良かったと心から思うのだった。
197Res/206.41 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。