92:名無しNIPPER[saga]
2016/06/01(水) 00:44:06.56 ID:49W9hqJ1o
そんなお祭りのような列に並んで数分後、飛鳥が会場に到着し、黄色い声援を受けながらサイン会が開催された。
蘭子は初めて見る憧れの漫画家を見て興奮していた。
手にはサインしてもらうつもりで用意した単行本を大事そうに抱えている。
美優は蘭子の体力を心配したが、思ったより列の進みが早かったので、水筒の栄養ドリンクを一口飲ませている間にはもう飛鳥の姿が近くに見えてきた。
そして、とうとう蘭子の番である。
間近で見る飛鳥は、なるほど只者ではないと思わせるような一種独特なオーラを放っていた。
何かをじっと見据えているような澄んだ眼差しの、その奥には何か深淵な思惑を秘めているような趣があった。
見かけは美優よりも年下に思われたが、飛鳥から漂う謎めいたプレッシャーは美優でさえ緊張してしまう程だった。
いわんや蘭子をや。
蘭子「あ、あのっ、い、いつも楽しく読んでますっ、ファンですっ」
ファンでなければこんな所には来ないのである。
というよりも、何を話すか事前に予行練習していたにも関わらず、蘭子はそれらをすっかり忘れてしまっていた。
対する飛鳥は、ちらりとも笑顔を見せずに「ありがとう」と言い、色紙にさらさらとサインを描いた。
義務的な動作である。
蘭子は手に持っていた単行本の存在すら忘れて、ただ固まって飛鳥の手の動きを見つめていた。
飛鳥「……それもかい?」
蘭子「はいっ!?」
飛鳥は蘭子が大事そうに抱えている本を指差した。
蘭子があわあわと震える手で差し出すと、飛鳥は慣れた手つきでイラストを描き添えた。
ぶっきらぼうに見えて案外サービス精神もあるのだ。
蘭子(何か話さなくちゃ……何か……)
蘭子の思考プロセスは、その回路の負担がある閾値を越えると言語野の機能がスイッチのように切り替わる。
これはドールというよりも蘭子という個の特徴であり、生活環境の中で学んだある種の自己防衛反応とも言える。
パチン。
蘭子「……クックック、天命より授かりし我がヴァルハラに煌く色彩を穿つ者よ……よもや煉獄の地にて相見えるとは、これも運命の悪戯か」
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