過去ログ - 【ガルパンSS】西絹代(30)「恋って、したことないんだよなぁ」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:43:27.87 ID:6GJ2ZMddO
なんてことない世間話の途切れに、口の中で呟いた。
Pity is akin to love.
可哀想だた惚れたって事よ。
しばらくして、彼の息女が門から出てくると、一目散に父親に抱きついた。
はて、と私は思った。息子の姿がない。身を乗り出して見ると、息子は少し離れたところに仏頂面で立ち止まっていた。
以下略
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:43:55.16 ID:6GJ2ZMddO
「喧嘩でもしちゃったか?」
訊くと、息子はこっくりと頷いた。
「あんなに仲が良かったじゃないか」
私は息子を抱き上げて門を出た。そして、同じように息女を抱いていた彼へ別れの挨拶をすると、そそくさと家に帰った。
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:44:21.53 ID:6GJ2ZMddO
その夜、ずいぶん久しぶりに夫から求められた。セックスの回数はもともと多くなかった。お互いに淡白な性分で、今では月に一回あれば多いほうだ。私から求めたことは一度もないが、夫から求められたときは断らなかった。しかし、今夜は身体を離し、私は夫に背を向けてしまった。夫が小声で謝るのへ曖昧に返事をしたが、むしろ、私の身体は火照りさえ覚えていた。しかし、この火照りは夫のためではなく、別の男のためであった。微かに浮かぶ罪悪感を見たくなくて、私は目をつむった。
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:44:48.76 ID:6GJ2ZMddO
息子はなかなか、彼の息女と仲直りしなかった。しかもこの頃は、別の女の子と手を繋いで門を出てくる。
「羨ましいな」
私は半ば本気にそう思って、苦笑混じりに呟いた。
息女はと言えば、ひとり逞しく園内から父の腕の中へと走ってくる。彼は息女を家へ帰したあと、また仕事へ戻るのだろう。私の家で息女を預かるのは、彼のほうから断られた。つまり結局、以前の状態へ戻ったのだった。ただひとつ以前と違うことは、彼と話す機会さえ私から奪われたことだ。息子が他の子と仲良くなれば、自然、その親御さんと話すことになる。
以下略
19
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:45:18.12 ID:6GJ2ZMddO
他人からすれば、なにも変化などないと見えるだろう。けれど、違うのだ。確かにあった繋がりが、断たれた。私は、息子が彼の息女と仲直りするのを、祈る他なかった。本当に、ただ、祈っていたのだ。
20
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:45:45.54 ID:6GJ2ZMddO
ある日の昼下がり、ふいと万年筆を取った。便箋を撫でつけ、ためらいがちに筆先を落とした。極端に記号化された文句から書き始め、それから私の息子と彼の息女について書き、彼の仕事や体調の心配を——私は手を止めた。迷惑だろうかと、そう思う以前に私は人妻なのだ。
不意に、胸の底の奔流にむせた。どうしてだろう。誰が私を連れてきたのか。
21
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:46:44.63 ID:6GJ2ZMddO
「これが恋なのでしょうか」
ため息を書き写して、手紙を結んだ。その一文が宛先を奪ってしまった。
私は上着の内ポケットへ手紙を入れておいて、彼を見かけたときどきに胸元さすってみた。それで少しは具合がよかった。
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:47:58.36 ID:6GJ2ZMddO
そんなお遊びを続けているあいだに、彼は幼稚園へ姿を見せなくなった。彼だけじゃない、彼の息女も登園していないようだ。それとなく息子に訊くと「ビョーキ」と短い答えが返ってきた。
私は家へ帰ると、すぐに彼へ電話をした。
「入院しているんです」
「えっ……」
彼の言葉に一瞬気を失いかけたが、どうにか持ちこたえた。悪い想像とどこかで耳にした病の名前がぐるぐると頭に渦巻いた。彼は電話口にも私の様子を察したらしく、軽く笑って「胃潰瘍ですよ、すぐに治ります」と言った。それを聞いて、ひとまずほっとした。遅れて息女のことを訊くと、入院のあいだだけ預かってもらっているそうだ。
23
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:48:24.06 ID:6GJ2ZMddO
「大事でなくてよかったです……」
それから明日にも見舞いへ行くと告げて、私は電話を切った。
居間のほうから、私を呼ぶ息子の声がした。
「今は、仲良しじゃないもんな」
苦笑しつつ、居間へ向かった。
24
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:48:53.09 ID:6GJ2ZMddO
窓辺の花は微かに乾いていた。吹き込む風にかさかさとこすれ合った花びらが一つ離れ、シーツの上に落ちた。花を持ってこなくてよかった、と私は思った。
「お気遣いいただいて……」
紅茶の箱を棚へ置くと、彼は照れくさそうに頭を掻いた。顔色はあまり良いと言えないが、思っていたよりも元気そうで安心した。
傍の椅子へ腰掛けたはいいものの、なかなか言葉が思い浮かばなかった。
25
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:49:22.62 ID:6GJ2ZMddO
「入院と言うので、驚きました」
「本当に、大したことはないんです」
そう言って、彼は笑った。笑い返してすぐ、なぜだか耳のあたりがくすぐったくなり、私は目を伏せた。柄にもなく、もじもじと手遊びが止まなかった。
「貴方は……」
言いかけて、内ポケットの手紙に意識が集まった。
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