過去ログ - 花陽「カリスマ」
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22:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:30:18.08 ID:UvARFro70
「キラキラしたステージで私たちに夢を見せてくれるのは、現実を頑張った人なんじゃないかな。にこちゃん、アイドルってね……」

「花陽。それはスタートラインの話であって、誰も手を抜いて活動なんてしちゃいないのよ。みんな舞台の外では死に物狂いよ? 必要なのは、そこから先に提示できる何かで支持を得ることなんじゃないの」

 笑顔にさせる、ためにはね。――小さく震えながら引き絞るように意見する、いつまでも真っ直ぐなにこちゃん。きちんと切り替えて思考できる地頭の良さは誰にも負けない。だからこそ私は見栄も恥もかなぐり捨てて、この人にぶつかっていけるんです。
以下略



23:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:33:10.78 ID:UvARFro70
 凛ちゃんが、咽ぶ私の肩を抱いて縋る。真姫ちゃんが、しゃくり上げるにこちゃんの手を握る。

「もがいて、足掻いて、死に物狂いで……。絵里ちゃんと海未ちゃんが置いていってくれた特訓メニュー、改良しながらみんなで続けてるよ。にこちゃんだって、お仕事大変でしょ? でもそれって、ステージの裏って、隠さなきゃいけないことなのかな?」

 息が苦しいし、上手に喋れない。
以下略



24:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:37:02.65 ID:UvARFro70
「前に、希ちゃんに撮ってもらったりしたみたいに、私たちがμ'sの中でやってたみたいなことの日常も併せて、もっとみんなに向けて発信するの。そんなアイドルがいたって、良いと思う」

「……切り売りになるわよ」

 こんな状況でも、恐ろしく現実的で冷徹な指摘。にこちゃんは正しい。でも、それでもね。
以下略



25:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:39:45.42 ID:UvARFro70
 泥臭くて格好良いにこちゃんの可愛いところも、可憐で可愛いにこちゃんの格好良いところも、知ってもらわなきゃもったいないと思うの。だって私はμ'sのファンで、この部のファンで、にこちゃんのファンなんだもん。

「応援してくれる人は、私たちの頑張りも見てくれると、信じてます」

 “助けてくれる誰か”に恵まれた私だからできること、分かることがあると思うんです。周りを引っ張ってくれる穂乃果ちゃんやにこちゃんを目の当たりにしてきた、私だから。


26:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:42:18.22 ID:UvARFro70
「ハァ……。アイドルっていうのはね、むかーしむかしはトイレにも行かないなんて言われてたのよ?」

 にこちゃんは、笑ったのでしょうか。すっかり陽も落ちて暗がりに鳴る声から、険しさが薄れた気がしました。

「人も時代も、アイドル像も。変わっていくのかしらね」
以下略



27:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:45:12.62 ID:UvARFro70
 にこちゃんは凄いなぁ。こんなにも頼もしい。
 部長を引き継いだとき、私は“にこちゃん”になろうとしました。だからといって、どんなに真似たところでなれるものでもなく、結局、小泉花陽は小泉花陽のままでした。

「私は、にこちゃんの影を追ってたの」

以下略



28:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:49:04.53 ID:UvARFro70
「あぁまったくもう! 部屋ん中真っ暗じゃない! 熱くなるのも考え物よね。ほら凛、電気点けて!」

 沈んだ空気を打ち払う、張りのある号令に打たれて、凛ちゃんが戸口に走ります。暗いのに走っちゃ危ないよ?

 ――ある一定の線を越えると、元来その人が持っている特性のようなものに触れる場面があります。性格だったり弱点だったり、思いがけない特技だったり。中でもごく稀に、あまねく基準を無に帰して、良くも悪くも注目される、独楽の軸めいた振る舞いをする人が出てきます。なんの巡り合わせか、嗜好や度合いの差こそあれ、私の身近にも二人ほど。
以下略



29:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:51:14.65 ID:UvARFro70
 ここには、穂乃果ちゃんがいました。

 ここには、にこちゃんがいました。

 けれど二人はもういません。渡されたタスキは今、この手にあるのです。道半ばで立ち尽くす私たち三人の姿はまるで、新しい指導者を待つ民衆のごとくに映るでしょう。
以下略



30:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:54:44.65 ID:UvARFro70
 現三年生である三人の誰も、残念ながら“カリスマ”にはなれませんでした。私たちの仲に“絶対”は無いのです。そのため私は部長、凛ちゃんはリーダー、真姫ちゃんは生徒会長をそれぞれ分担して務めることにしました。並列に繋がった三つの意志は、誰が欠けてもその体を成しません。その代わり、誰か一人が転んでも、残りの二人が必ず助け起こします。軸が折れれば止まってしまう独楽ではなく、絡み合った一つの生命体として、私たちは決して倒れず諦めず、走り続けられるのです。

「ねぇかよちん、ほら、隣の棟。見回り始まってないかにゃー?」

 懐中電灯のものと思しき明かりが、最上階にある一番端の教室から順に巡っているみたいです。ここには卒業生も一人混じっているので、さすがに芳しい状況ではありません。


31:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:57:11.00 ID:UvARFro70
「あぁそうだ、ちょっと真姫こっち来なさい。次は凛ね。短く済ませるから」

 閃いたふうのにこちゃんは、真姫ちゃんに耳打ちをしています。一拍置くと、凛ちゃんにも何やら囁き始めました。

「よっし。それじゃ先生に捕まる前においとましちゃいましょ。真姫、凛、出るわよー。花陽は部室の鍵閉め頼むわね」
以下略



32:名無しNIPPER[saga]
2016/06/04(土) 00:00:18.56 ID:hlhV/7mM0
「ねぇ、凛ちゃん、真姫ちゃん。さっきにこちゃんからなんて言われたの?」

 上履きをしまいながら堪らなくなった私は、思い切って本人たちに訊いてみました。するとどういう了見か、二人ともにわかに言葉を濁しながら戸惑い始めるではありませんか。恥ずかしがっているようにも見受けられます。目の前で可愛らしい姿が拝めるのは大変良いことですが、立て続けに質問するのも憚られますし、それに、そんな時間も残っていません。履物を脱いだばかりのタイツ越し、足の裏へと触れる冷たいリノリウムが、すぐに帰れと急かしているみたいです。仕方が無いのでにこちゃんの元へと合流すると、察したにこちゃんは意地悪な笑みで私に告げるのです。

「いいかしら花陽。女の子は秘密でお化粧するの。知ってもらうことは大事よ? でもね、知られちゃイケナイこともあったりすると、もっともっと魅力的になるのよ。分かる?」


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