過去ログ - 花陽「カリスマ」
1- 20
7:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 22:49:14.84 ID:UvARFro70
 引き留め工作の一環として私は席を譲り、真姫ちゃんが取り置いていたお菓子をそれとなく勧め、凛ちゃんは校内で一番近いジュースの自動販売機に走っていきました。そういえばにこちゃんは、もうすぐお酒が飲める歳になるんですね、早いなぁ……。

「ふーん。それなりに、しっかりやれてるじゃない」

 七割ほど減った缶の上っ縁を軽く指ではじき、にこちゃんは私たちの活動を褒めてくれました。凛ちゃんは何を思ったのかトマトジュースを全員分購入してきたのですが、真姫ちゃんが嬉しそうなので良しとします。ただ、お菓子との食べ合わせについては言及しないことにしたほうが、穏便に済みそうです。


8:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 22:51:43.46 ID:UvARFro70
 μ'sの名前を継がなかった私たち。
 あれから、部全体とは別に新しく2〜3人のユニットも組んで活動していること、ユニット間でも相互にやり取りをしつつ、浮き沈みありながらもスクールアイドルのランキング自体には残り続けていること、にこちゃんが本格的にアイドルとして活動を始めたこと。山積みの日常をできる限り伝えたくて、代わる代わる被せ合って話題を出し合いながら、言葉の洪水の中で生じた一秒にも満たない瞬きをついて、にこちゃんが寂しそうな目で呟きました。残念ながら私たちは、その一言の流出を食い止める事ができませんでした。

「私は、ここに何を残せたのかしらね」


9:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 22:54:15.80 ID:UvARFro70
 私たちは恐れていたのかもしれません。いずれ俎上に載せられるであろう事柄を、できる限り先延ばしにしたくて喋り続けていました。お陰で喉は貼り付くほどに渇いて、ジュースもほとんど口にしていません。残る二人も同じく、ほぼ蓋を開けただけの缶の前で、身を固くしています。

「え、でも凛はこれ。リボン、貰ったよ……?」

 にこちゃんが在学中にその艶やかな黒髪を結うのに使っていた真っ赤なリボンを、凛ちゃんは華奢な首を傾げて指差します。いつも元気な声色が僅かに揺らいだのを、私は聞き逃しませんでした。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 22:57:21.27 ID:UvARFro70
 ああ……、なんてにこちゃんは聡いのでしょう。その場限りのお為ごかしなんかは絶対に通じない、本気の時の、刺すような深く赤い瞳。元々にこちゃんからの押しに弱い真姫ちゃんに至っては、射竦められてうろたえるばかりです。みんなで仲良くしていたい、できれば触れて欲しくない、でもいつまでも逃げ続けるわけにはいかない。二律背反するこちらの痛い腹を的確に突いてくる実直なにこちゃん。自らが創立し、存続にこだわった部を託す形で後にした先輩が、後輩である私たちに、これからの在りようは如何かと暗に訊ねているのです。

「一年くらいならなんとかなるのよ、発起人の穂乃果もいたしね。体制を変えなくても十分通用するわ。と言うより、むしろそのほうが観客受けは良いくらいでしょ。問題はその次の年から。ここから先は小手先じゃどうにもならない、地力がついていかないとダメなの」

「知名度的に考えてもね」


11:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:00:20.44 ID:UvARFro70
 知名度。本来なら喜ぶべきはずのものですが、現在の私たちには酷く憂鬱な意味合いを伴って圧し掛かってくる言葉なのです。
 確かにこの場所から“九人で”スクールアイドルの一番高いところまで到達することに成功しました。それはとても甘美な経験となって、今もなお、私たちの背中を照らし続けています。
 しかしていつの間にか、あのステージで浴びた柔らい暖色の光は時間と共にその質を変化させ、背後から一層増していく光量に肌の焼ける臭いが鼻をつくまでになり、眩しさでもはや振り返ることすらできないまでに肥大化していました。
 このままではそう遠くないうちに、誰の手にも負えなくなってしまうでしょう。“三代目は身上を潰す”なんて諺だって、あるくらいなんですから。


12:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:03:09.11 ID:UvARFro70
「にこちゃんはそう言うけれど、私だってあれこれ考えてはいるのよ? にこちゃんたちが抜けてμ'sが無くなって、穂乃果たちも卒業して……。それでも部は失くさない、しっかり回していこうって……」

 ここのところ以前にも増して凛々しく見えるようになった真姫ちゃんですが、抗弁しながらもなんだか愛憎複雑な表情になって、口篭ってしまいました。
 一学年下の雪穂ちゃんや亜里沙ちゃん、新入生で入部してくれた子たちだっていますし、絵里ちゃん発案の“先輩禁止”も続けています。なので、部としての体裁こそ整っていますが、どうしたら良いのか迷ってしまう。きっと、それこそ穂乃果ちゃんが活動を始めた時とは正反対の問題が横たわっているんだと思います。凛ちゃんも真姫ちゃんも、考えれば考えるほど堂々巡りになって、何も解決しそうにありません。

以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:06:10.52 ID:UvARFro70
 数ヶ月前、卒業式を間近に控えた頃でしょうか。ことりちゃんの衣装製作にお手伝いとして参加していた時に私は「みんな卒業していって、これからどうしたら良いか分からない」といった内容の弱音を漏らしてしまいました。お互い作業の手を止めず、二言三言交わすうちに、どちらからともなく希ちゃんの名前が挙がりました。
 μ'sを名づけた希ちゃんなら、いつも見てきてくれた希ちゃんなら、あるいは。
 とんでもなく直感的で蒙昧な思いつきでしたが、おおよそ間違いではないだろうという漠然とした安心感があったのを覚えています。


14:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:09:15.95 ID:UvARFro70
「そうやんなぁ……。今の花陽ちゃんたちに必要なんは、にこっちやと思うんよ」

 その夜。電話口で響く希ちゃん独特の柔らかな声音は、冷たい不安に絡まって動けなくなりそうだった私の神経をゆるゆると解してくれるようでした。散らかった話題の間をとりなして、希ちゃんは教えてくれました。絵里ちゃんとは違う大学に通いながらも何かとよく顔を合わせていることや、にこちゃんの現状について。その中で、優しい希ちゃんの提案に声が詰まりそうになるのを堪えながらお願いしました。スケジュール的に間が空いてしまうのは避けられないけれど、との注釈付きで、それとなく、雰囲気を察して頼んでみるとの約束をもらいました。

「あ、電話切り際にごめんな? これはウチの想像やけれど、にこっちにも、花陽ちゃんたちが必要なんやないかな。物事を教わるんに、上も下も無いと思わへん?」
以下略



15:横須賀鎮守府読んどけ舞鶴横鎮守府善い小説漫画だ
2016/06/03(金) 23:10:50.01 ID:UHE+Az+20
「ダンジョンズ&プリンセス」は、2015年12月28日(月) 15:00をもちまして、全てのサービスを終了させていただきました。

ご利用いただいていた皆様には、これまでのご愛顧に厚く御礼申し上げます。
今後ともDMM GAMESをよろしくお願いいたします。

以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:12:52.27 ID:UvARFro70
「ちょっと、良いかにゃ……? 凛には……、あんまり詳しいことは分かんないけど、にこちゃんもさっきから変だよ。なんかつらそうにしてる。ねぇ、何かあったりした? もしそうなら凛にも、……凛にも、教えてほしいにゃ」

 これまで静かにしていた凛ちゃんが、申し訳なさそうに心配を口にします。私のように事前情報を持っているわけでも無いのに、天賦の嗅覚がそれを感じさせるのでしょう。机上で重ねたしなやかな指先を爪立てて、必死に頭の中から言葉を選び出そうと四苦八苦していますが、どうやら思うような表現が見つからないようです。

「私だってね、似たもの同士なのよ」
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2016/06/03(金) 23:15:39.18 ID:UvARFro70
 スクールアイドルとしての実績こそあれ、本業のアイドルとしてのにこちゃんは駆け出し二年目の新人。A-RISEの皆さんのようにグループそのままで業界へと鳴り物入り、というわけにもいきません。多学年大人数ユニットの弱みはここにあって、順境も逆境も人数の力で乗り越えられますが、時間や方向性の変化に弱いのです。私たちスクールアイドルのような期限付きの活動では、特に。

「だからってウダウダしていられる状況でもないからね、また明日から西へ東へ笑顔届ける矢澤にこにこー♪ さて、本当にお邪魔しちゃったわね。まぁ、お互い気張りましょ」

 沈みかかる夕日で影になる、いよいよ話を切り上げて帰ろうとするにこちゃん。引いた椅子の脚で床のビニルタイルが擦れて、情けない音が鳴っています。
以下略



39Res/28.85 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice