4: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 21:52:39.46 ID:wyDFH4YB0
 「恥ずかしい」 
  
 幸子は言った。 
  
 「恥ずかしいんです」 
5: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:07:56.83 ID:wyDFH4YB0
 ライブから帰ってから、幸子は逃げるように自分の部屋に入り、閉じこもるようになったらしい。 
  
 そして幸子の両親も幸子とはまともに会話ができないのだそうだ。 
  
 「期待に応えられなくてごめんなさい」と、そう言われたきり会話が続かないという。 
6: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:11:03.91 ID:wyDFH4YB0
 会話ではなくお話。 
  
 一方的で投げやりで意思の疎通はできていなくても、幸子は俺にだけは不満や苦しみを話してくれる。 
  
 幸子のお話をしてくれる。 
7: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:13:37.64 ID:wyDFH4YB0
 その後も時間を作っては、幸子に会いにきている。 
  
 他のアイドルには病気だと伝えているけれど、おそらくバレているだろう。 
  
 それでも俺は一人で通い続けた。 
8: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:17:45.89 ID:wyDFH4YB0
 「幸子、来たよ」 
  
 返事はなかった。 
  
 「……幸子?」 
9: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:19:30.09 ID:wyDFH4YB0
 しかしどうして今日はスマホなのだろう。 
  
 これまではずっとドア越しに話をしていたのに。 
  
 もしかして部屋の外にいるのだろうか。 
10: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:43:01.01 ID:wyDFH4YB0
 「……醜いって、なにを言ってるんだ。幸子の声は」 
  
 『ごめんなさい』 
  
 「ごめんなさいって、そういうことを聞いてるんじゃ」 
11: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:44:22.09 ID:wyDFH4YB0
 どっ、と嫌な汗が流れる。 
  
 何度も話を聞いていれば。幸子の中にある嫌なものを全部吐き出させてやれば、幸子はよくなると思っていた。 
  
 よくはならなくとも、その場限りは楽になると思っていた。 
12: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:45:50.48 ID:wyDFH4YB0
 絶句する俺に、幸子はだめ押しのように続けた。 
  
 『ごめんなさい』 
  
 『ボクはボクの声が恥ずかしい』 
13: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:48:01.31 ID:wyDFH4YB0
 その先を考えそうになって、否定するように声を出した。 
  
 「なあ、幸子。もうやめよう」 
  
 絞り出した声は震えていた。 
14: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:51:33.73 ID:wyDFH4YB0
 スマホは鳴り続けた。 
  
 『本当は知っているんです。みなさんが優しいことも、ボクを笑ったりしない人達だということも』 
  
 「……」 
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