5: ◆JgoilToZJY[saga]
2016/06/20(月) 06:02:14.47 ID:9fy5FiS10
清澄村は、山の中にある。
人口の少ない、のどかな村。
この地に生を受けた者は、この地で過ごし、死んでいく。
罪人でもなければ、この村を出る必要は無いからだ。
私と京ちゃんも、そうだと思っていた。
なんとなく一緒に過ごして、なんとなく一緒になるものだと……
甘いだけの夢なんて、幻でしかないのに。
布団の上で、私はずっと天井を見つめていた。
起きてから、ご飯を食べる余裕もない。
布団の上でずっと、物思いに耽っている。どうするべきか? と。
こんなんじゃダメなのに……時は迫って、今日は、もうその日なのに。
「咲、いるか?」
外から京ちゃんの声がする。私の住む小さな木造の小屋はよく外の音を拾う。
京ちゃんに変声期が訪れて、ぐんと声が低くなったのも今は昔。
体つきも大人っぽくなって、京ちゃんと目を合わそうとするといつも首が疲れるくらい。
「いるよ……何?」
「今日さ、村のみんなで集まるだろ? それでその……ちょっと"練習"に付き合ってよ」
「昨日やったので完璧って言ってなかった?」
「いざ当日になってみるとやっぱり緊張すんの! 頼む! 俺とお前の仲だろ? 咲」
「……まあ、断るつもりもないけど」
声に味というものがあるだろうか?
あるとしたら、京ちゃんの声は途轍もなく甘い……少なくとも私にとっては。
はあ、変なことばっかり考えてる。
「ごめん京ちゃん。すぐ行くね。準備するから、少し待ってて」
「わかった!」
寝癖のはねた髪だけでも、直さなきゃ。
49Res/52.85 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。