5:名無しNIPPER[saga]
2016/07/01(金) 01:48:27.30 ID:YGge3a1w0
4
「すみませんでした!」
私が深々と頭を下げると高垣さんは「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
「でも……」
私がもごもごとしていると、彼女は言った。
「なら、また一緒に飲みに行って下さい。……いい、ですか?」
……あんなに柔い声色でそんなことを言われてしまったら、もう、私に断れるわけがなかった。
それから、私たちは一緒にお酒を飲みに行く仲になった。
私はいつも緊張していたけど、それでも、最初に比べれば幾分か話せるようになっていった……と思う。
高垣さんはいつも何かを憂いているような、どこか澄ましたような、そんな表情をしていて……でも、私と一緒にお酒を飲んでいる時は、それが少しだけやわらかな表情になっているような気がして。
ただの自惚れだったのかもしれないけれど、そういったひとつひとつのことが、とても、とてもうれしくて。
あの憧れの高垣さんとそんな仲になるなんて、少し前までならとても信じられることじゃなかった。
でも、現実にこうなっているのだから世の中何が起こるかわからない。私にとってはこれこそが『事実は小説よりも奇なり』と表すべきことだった。
そこまで頻繁に、というわけではなかったけれど、たまに高垣さんと一緒にお酒を飲みに行って、ちょっとしたお話をして……。
そんなことができる私は、世界でいちばん幸せだと思った。
一生分の幸運を使ってしまったかもしれない、って、そんなことすらも思った。
こんな時間が、永遠に続けばいいのに、って……そう思っていた。
でも、そんな幸福な時間はそう長くは続かなかった。
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