7:名無しNIPPER[saga]
2016/07/01(金) 01:50:30.77 ID:YGge3a1w0
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それから。
高垣さんが事務所を辞めたことにより、高垣さんが常に居た位置が空席になった。モデル仲間たちは高垣さんが居た位置を取り合うようにしていっそう仕事に精を出していた。
私はそんなこともなく、ただいつも通りに仕事をした。すると、私にいつも高垣さんが勤めていた仕事が転がりこんできた。
そのまま何となく続けるうちに、それは私の仕事だとみんなが認識するようになっていった。
『私は、何も、特別なことはしていませんよ』。そういうことか、と思った。そういうことだったんだ、と思った。
高垣さんが座っていた場所を手に入れて、それは憧れの彼女に近づけたということに違いないはずで、でも、私はちっとも嬉しくなかった。
こんなもの、高垣さんが居なかったら何の意味もない。
その頃には、私はモデルを辞めようかとまで思うようになってきていた。モデルを辞めたところで行くあてなんてなかったけど、続けるモチベーションもほとんどなかった。
しかし、それでも、私はモデルを続けていた。
心のどこかでまだ高垣さんをあきらめきれていないんだ、と思った。縋っているんだ、と思った。もう……いや、はじめから、私と彼女の繋がりは、ここにしかなかった。
そんな私を私は笑った。送り出したのは私なのに、今更、何を思っているんだ。
それなら、彼女を引き止めればよかったのに。『行ってほしくない』って、『続けていてほしい』って、『変わらないまま、ここにいてほしい』って。
今でも少し考える。
もしもあの時彼女を引き止めていれば、今頃、どうなっていただろう。
高垣さんが私なんかの言葉で自分の決意を曲げたとは思えない。でも、それでも、私の気持ちは違ったんじゃないだろうか。
あの時、もしも本心を言っていれば……本心をそのままにぶつけていれば、今、こんなに後悔することはなかったんじゃないだろうか。
そんなことを考える。考えて、意味がないことだと気付いて、気分がずんと重くなる。
高垣さんは、どうしてモデルを辞めたのだろうか。どうしてアイドルになったのだろうか。考えても仕方のないことだとわかっている。でも、どうしても納得できなかった。どうしてモデルじゃダメだったのか。
どうして、アイドルだったのか。
その理由が、私にはわからない。
あの時私がそれを聞けば、彼女は答えてくれただろうか。
あの時私が彼女を引き止めていれば、アイドルを選んだ理由を言ってくれただろうか。
そうしたら、私は納得できていたのだろうか。
……今となってはそれだけが、心残りだ。
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