過去ログ - 開かない扉の前で
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37:名無しNIPPER[saga]
2016/07/05(火) 23:43:43.19 ID:b+Qvcd5ho

 とにかく、そんなどこかそぐわない調子で、わたしたちは歩き始めた。
 
 つい先日のことだというのに、豪雨なんてなかったみたいに街並は平和だった。 
 ブロック塀に挟まれた狭い道は、きっと十年前もこんな景色だったのだろう。
 
 塀の向こう側に見える民家の敷地のトタンの壁には、キリスト教の聖句風の怪しげなポスターが張られている。
 田舎ではよくある光景だ。

 しばらくわたしとケイくんは、のどかと言ってもいいような静かな景色に紛れて歩いていた。
 車もほとんど通らなければ、人の姿だってろくに見なかった。
 
 目を閉じると濡れた土の匂いがした。

 なにもかもが嘘みたいに平和な景色。

 それが、ある曲がり角を見つけたとき、変わった。
 あきらかに、そちらに曲がる道だけ、何かが違った。

 冷静に考えればすぐに分かる話だ。
 
 横の民家の庭から伸びた木が枝を伸ばして、上から狭い道を覆っている。
 そのせいで日があまり差し込まず、他の場所よりいくらか翳って見えてしまうのだ。
 
 ただそれだけ。ただそれだけのはずなのに、なんだか踏み入るのがためらわれた。

 わたしたちふたりは何も言わずに一度立ち止まってから、視線を合わせて、黙って頷き合って、そちらへと進む。




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