過去ログ - 開かない扉の前で
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77:名無しNIPPER[saga]
2016/07/10(日) 01:26:02.82 ID:ZjlcYbSYo

 顔は赤。シルクハットをかぶっている。首元に黄色の細い風船が伸びているが、その下は服で隠れていてよく見えない。
 手指は更に細く小さい風船でできていて、その奇妙な指で彼(?)はステッキを掴んでいる。
 
「どれ、その子はどうした」
  
 とそいつは言って、いつのまにかわたしたちの足元へやってきていたゼンマイ仕掛けの子犬をステッキでつついた。

「いかんな、きみ。順路を破ってはいかん。いや破るのは好きにするがいいが、私には責任が持てなくなる。
 まあとはいえだ。きみの人生だ。きみの好きにするもよいだろう。しかしねきみ、勝手というのはどこにいっても許されぬものだよ。
 団体行動を乱してはいかん。いまのうちに肝に銘じておきなさい。きみのためを思ってこそ言うのだよ。さあ、皆が行ってしまう。戻りなさい」

 戻りなさい、と彼は言って、ステッキで何度も子犬を突つく。
(決して強く叩いているというわけでもないのに、わたしはなぜかその光景に烈しい反感を覚える――)

 子犬はしばらくクンクンと録音音声らしき声を垂れ流していたけれど、やがて静かな声をあげて、
 風船紳士がやってきた方の道へとゆっくりと進んでいった。

 ケイくんは、静かにわたしの手のひらを握る力を強めてから、

「あんた、言葉は通じるのか?」

 と、風船に向けて話しかけた。
 風船は一瞬、動きを止めたかと思うと、さっきまでと同じようにステッキをくるくる回し始め、

「――やあ、今日は、ご機嫌いかが。久しぶりだね、その後どうです」

 と言った。
 わたしは静かに瞼を閉じて、落ち着け、と、意識を強くもとうとしたけれど、
 立ちくらみのような気持ちの悪い感覚が、ぐらぐらと足元を揺さぶっている気がして仕方なかった。




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