過去ログ - 開かない扉の前で
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889:名無しNIPPER[saga]
2017/11/15(水) 23:54:17.11 ID:lNunJpruo


 小夜啼鳥の童話を思い出す。
 
 遠い遠い昔の話だ。
 時の中国の皇帝の、絢爛豪華な御殿には、風光明媚な御苑があった。
 
 その広大な地にあるものはなにもかもがすべて美しくきらびやかで、訪れた人々はそこにあるなにもかもに感心し褒めそやしたが、
 そのなかでももっとも美しいのはさよなきどりの歌声だと、誰も彼もが口を揃えて譲らなかった。

 旅行者たちは国に帰るとまっさきにその鳥の声について語り、学者たちはやはりさよなきどりの声にまさるものはないと本を著し、
 詩人たちはきそってその歌声を言葉のなかに顕そうとした。

 けれど、その皇帝は、その広大な庭の持ち主である皇帝は、それまでさよなきどりの声を耳にしたことは一度もなく、
 その鳥の存在さえ、御苑について誰かが著した本を読んで初めて知ったくらいだった。

 そこで彼は、さよなきどりの歌声をどうしても聞いてみたいと、侍従長に命じてこれを探させた。

 さて、侍従長が御殿の台所で下働きをしている娘をつかまえて、彼女に話を聞いてみると、彼女はなんでもないことのようにこう言ったのだ。

 ――まあ、さよなきどりですって、わたしはよくしっておりますわ。ええ、なんていいこえでうたうんでしょう。

 ――きいているうちに、まるでかあさんに、ほおずりしてもらうようなきもちになりましてね、つい涙がでてくるのでございます。




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