987:名無しNIPPER[saga]
2017/12/11(月) 01:29:23.04 ID:S5mn3zpLo
「少し、寒くなってきたね」
なんて、そんなことを、平然としたふりをしながらいいながら、
きっと、今日のこの瞬間のことを、わたしはいつまでもいつまでも忘れないだろうな、と、ぼんやりと思った。
「……そうだな」と、ケイくんは、なんでもいいような相槌を打った。
また風が吹いて、落葉をさらっていく。
「そろそろ、行こうか」
わたしは、そう言って彼の体から離れて、立ち上がった。
「どこに?」と彼は言う。それでも、わたしに合わせて立ち上がる。
「わたしたちは日常に帰らないとね」
は、と彼は笑った。
わたしたちは、手を繋ぎ直して、校舎裏の切り株に背を向ける。
無言のまま前を見ている彼の横顔を見て、
そういえば、まだちゃんと、わたしの方から好きだって言ってないな、と、どこか場違いなことを思ったけれど、
それは、次の楽しみに、照れた彼の顔をもう一度見るために、とっておこうと、そう思った。
そんなことを考えたとき、わたしの胸の内側に、なんともいえないあたたかくて満たされた感じがじんわりと広がって、
それはあまり覚えのないもので、わたしを少し戸惑わせたけれど、
でも、ぜんぜん悪い気はしなかったから、これはよいものだなと思った。
この気持ちを言葉にしようと思ったら、きっと簡単なんだろうな、とわたしは思った。
でも、言葉にはしないことにした。きっと、その方がいい。
冷たい風がまた吹き抜けていくけれど、わたしの手のひらは、彼の手のひらに包まれたままだった。
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