過去ログ - 北上「離さない」
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154: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/08/09(火) 15:44:12.94 ID:8dWkI+gE0

「あー、ごめんごめん、びっくりさせちゃった?昔事故っちゃってさー、その時のなんだよね。ケイちゃんには、内緒にしてくれると嬉しいな。」
「事故…ですか。は、はい、わかりました…。」


風呂から上がり部屋へ戻ると、北上は一足先に、備え付けのドライヤーで髪を乾かし始める。
そして自分の方が終わり交代するかと思いきや、彼女は夕張を、鏡台の前に座るように促した。


「夕張ちゃん、やったげるよー。おいで。」


促されるまま椅子に座ると、優しい手付きが髪を通って行く。
サラサラと風と手が水気を払い、夕張の髪は北上よりも早く乾いて行った。
そして慈しむように、すっ、すっ、と優しく仕上げの櫛が通って行く。


「綺麗な髪してんねー。目もくりっとしててさ…お人形さんみたい。アタシすっぴん薄いからねー、羨ましいもんだよ。」
「そうですか?北上さん、それだけ長くても全然傷んでないじゃないですか。」
「いや、結構大変なんだよー。爆発しちゃうから、いつも三つ編みだしさ。

ふふ…でもほんと、綺麗な髪だよねぇ…。」



それは、突然の感覚だった。



一度ぞわりと皮膚が泡立ったかと思えば、へばり付くような首元への違和感が夕張を襲う。
優しく髪を撫ぜる手が通り抜ける度、それは首筋や耳に触れ、その度形容し難い感覚が夕張を襲う。


夕張はあまりにも強烈なその感覚に、後ろを振り向く事が出来ずにいた。
そして彼女の肩には、北上の腕が優しくしなだれかかる。


「くす……ほんとかわいい…かわいいねぇ、夕張ちゃんは…。」


ふぅ、と首筋に息を吹きかけられ、遂に夕張の恐怖は臨界点に達した。
自身の肩に隠れ、鏡越しでも彼女に北上の表情を伺い知る事は出来ない。

ただ一つ、北上の口が、声を出さずに何かを語った事。
それだけは、鋭利になった首筋の感覚から理解出来た。


「さ!おしまい!明日も早いし、夕張ちゃんもそろそろ寝よー。」


そして北上がいつものテンションに戻った瞬間、夕張は、一気に悪夢の様な感覚から解放された。


当の本人はと言えば、そそくさと布団に潜り、寝の態勢に入ってしまっている。
夕張もおずおずと布団に潜りはしたが、壁を向いて布団を被り、北上の姿が目に入らないように努めていた。

少し打ち解けられた気がしたが、却って北上の得体の知れなさを覗いてしまった気がした。

『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。』

昔見た海外の諺が不意に脳裏を過ぎり。
彼女は先程の事を忘れる様に、必死に眠りに就こうとするのであった。


こうして合宿は、まず1日目が終わった。


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