349: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/10/06(木) 04:57:23.05 ID:FtLTPb5v0
「それじゃケイくん、また帰りにね!」
それでも尚、涙すら流す事が出来ず。
彼女はどこまでも明るい笑顔で、その影を見送る。
少し懐かしさを覚え始めた帰り道を歩き、家へと帰り。
着替えをして、両親と夕食を囲み、風呂を済ませ。
21時を過ぎる頃、ようやく彼女は、いつも通りの顔を外す事が出来た。
頭が呆然とする。
何が起きたのか、理解出来ない。
感情の正体が、掴めない。
彼女はまるで、酸素マスクを嵌めるようにヘッドフォンを付け。
とある曲の再生ボタンをタップした。
ベッドの上で壁にもたれ、囁くように、音楽に合わせ歌を口ずさむ。
そうして歌詞の一つ一つが夕張の中で反芻されるたび、彼女の中で、ゆっくりと感情が輪郭を濃くしていく。
それは、とあるロックバンドの、ひどく物悲しい横恋慕と失恋の歌。
何度かリピートする内に、彼女は部屋着の膝の上に、ポタポタと暖かな水滴が落ちている事に気付く。
“すっぴんで良かったな。マスカラやシャドウが残っていたら大変だな。”
などと、現実逃避をするように現実的な事を考えてはみるが。
彼女の涙に形作られるように、感情は次第にその姿を現し。
そしてズキズキと、胸の奥の痛みは強くなっていく。
同じ曲を、もう何度リピートしたのだろう。
プレイヤーは再びイントロを流し、歌い出しに合わせ、掠れた声はまた歌を口ずさむ。
ナイフを握れば、赤い糸をちぎれるのだろうかと歌う。その物悲しいメロディを。
やがて彼女は泣き疲れ、眠り。
次の日の朝、母親は心配そうに彼女の腫れた目を気に掛けていた。
それに対して彼女は、コンタクトで失敗しただけと言う。
昨日のように両親と談笑をして、母親と買い物に行って、夜は猫と遊んで。
彼女は、いつものように明るく振舞っていた。
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