114: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/17(水) 11:34:03.23 ID:90KdAnqB0
察しろとはあまりに身勝手で、また無責任であろう。他人は理解し合えないのだ。気持ちを知れたらどれだけ楽か。
安っぽくなっても、馬鹿馬鹿しく思えても、言葉にしなければなにも伝わらない。
「奏を信じてる。この場にいる、どのアイドルよりも輝けると信じてるんだ。そして期待もしてる。俺にとってはさ、奏が一番なんだよ」
「……随分と嬉しいことを言ってくれるじゃない。冗談だ、なんて言ったら怒るわよ」
「本気だよ。あるいは本心だ」
「ずるい人ね。……本当にずるい、……そんな言葉を聞いたら応えるしかないじゃない」
「やることは変わらないだろ?」
歓声が聞こえた。そろそろ奏の出番も近いだろう。
「そうね。だから、ちゃんと私のこと見ててくれなきゃ嫌よ、プロデューサーさん」
「当然だよ。なんて言っても俺は奏に魅了されてるんだ。目を離せるわけがない」
「ふふっ、もう、今日はいつにも増して積極的ね。熱でもあるんじゃないの」
「そうだな。浮かされてるのかも。冷まさないでくれよ?」
「明日寝込むぐらいには熱くさせてあげる」
奏の名前が呼ばれた。俺の出番はここで終わりだ。
「よし、好きにやってくれ。なにも気にしなくていい。見せつけてやれ。速水奏はここにいると魅せてやれ」
「ええ、あなたのアイドルが輝くとこ、しっかり見せてあげる」
手を離すと、奏は一度力強くうなずいてくれた。見届けてから、俺は彼女の背中を押す。月まで届くように願いを込めて。
歩き出した奏の華奢な背中は頼もしくもあり、そして気力に満ち溢れて見えた。
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