82: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/07(日) 03:56:56.48 ID:WVC8K8YCO
涙と一緒に暗い気持ちも流れ出たのかもしれない。
足取りは軽く、視界は明るい。俺は思っていたよりも単純な男だったようだ。
だからこそ、不安にもなるけれど。
副調整室から、防音ガラスで隔てたスタジオを眺める。速水さんの表情は明るい。
視線に気づいたのか目が合う。にこっと微笑んでくれた。口の動きで頑張れと伝える。
アイドル速水奏の一歩目は、ネットラジオの収録だった。
先輩の企画した番組にゲスト出演することが決まったのは、数日前のことだ。急に台本を渡された。
おかげで、速水さんと一緒になって必死に憶えるはめになった。もう少しどうにかならないものか。ありがたい話ではあるが。
スタジオでは島村卯月、渋谷凛、城ヶ崎美嘉、速水奏が台本の確認、副調整室ではディレクターが機器の調整をしている。
そろそろ始まる頃合いだろう。
「先輩は水を差したくなるときありません?」
「なんの話?」
「こう上手くいき続けてると不安になるというか……」
「どこかで大きな失敗が待っている気がして落ち着かないってか。くだらねー、先回りしてバランスでも取るつもりかよ」
「予定調和ってあるじゃないですか。盛者必衰とか生者必滅とか栄枯盛衰とか」
「泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目、踏んだり蹴ったり。ほら見ろ、調和なんてねーよ。んなもんあったらもっといい世の中になってるだろ」
「あー、鴨が葱を背負って来るもありますね。棚から牡丹餅、寝耳へ小判とか」
「万事塞翁が馬。失敗は成功の母。要は結果論でしかないんだよ。どこで終わらせるかの問題だ、失敗したら成功するまで続ければいい。まっ、成功して辞めたからと言って、いい結末とは限らないけどな」
楽しげに笑う先輩の言葉は正論だった。俺はどうするのだろう。
定例ライブ後、プロデューサーは続けるのか。
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