24: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:07:24.18 ID:a2seU7mk0
文香は改めてその時計の方へ振り返った
文香よりも少し大きな高さで上の方にローマ数字が刻まれた文字盤がある
その下ではゆったりゆったりと振り子が揺れていた
25: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:08:02.55 ID:a2seU7mk0
店主「お美しいお嬢さんは絵になりますなあ」
店主がそう言いながら売り場、と言ってもガラスケースの近くへと戻っていく
文香は少し照れながら店主を追い、何か話をと思い古時計について聞いてみた
26: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:08:40.82 ID:a2seU7mk0
店主が時計を眺める目は懐かしさと不安と期待を含んでいた
店主「まるでの歌の様じゃろ? この時計の話をするといつも息子や孫がそう言うんじゃよ。だからのう、わしもあの歌は大好きなんじゃ」
文香「歌、ですか。でも、あの歌は、私は聞いていると、少し悲しくなります」
27: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:09:36.06 ID:a2seU7mk0
童謡ならばもっと幸せな歌でいいのに
小さい頃、聞いた時の感想はそうだった
そんなこと今思い出したく無かったな、文香は知らないうちに表情が曇っていた
28: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:10:59.66 ID:a2seU7mk0
店主「お嬢さんや、何故そう悲観的になるのじゃ?」
文香「あの歌ではお爺さんは天国へ召され、時計とは別れさせられました。折角大切にお爺さんはされてきたはずの時計なのに」
店主「お嬢さん、生き物は例え人間でもいつかは死ぬんじゃ。いくら現世が恋しくても、いくら時計が大切でも、じゃ。それにのう、いつまでもそのお爺さんが時計と一緒ではその時計を知る人は増えないじゃろ?折角のいい時計なんじゃ、もっと沢山の人に知ってもらった方がいいじゃろう?」
29: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:11:36.13 ID:a2seU7mk0
確かにそうだけれどお爺さんが時計を手放したく無かったら?
お爺さんがどうしてお別れしなくちゃならないの?
お爺さんが可哀想すぎる、まるで駄々をこねる子どものように文香は反論していた
30: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:12:19.13 ID:a2seU7mk0
店主「お嬢さんは優しいのう、とてもとても。ここの時計は受け継いでくれる息子や孫が居る。時計は決して止まらず見守ってくれるじゃろう、わしの代わりにの。そしてそのお爺さんもそんな息子や孫を得たからお別れしても辛くなかった、とわしはそう思うの。それにお別れしてしまっても息子や孫はわしを覚えていてくれるじゃろう。それ以上の幸せがあるだろうかのう?」
文香の目には気付かぬうちに雫が溜まっていた
たった20年の人生では理解しきれない解答に感情が昂っての涙だった
31: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:12:52.94 ID:a2seU7mk0
とめどなく溢れる涙はどうして止まらない?
今度はそんな自分の姿に子どもっぽく思い、恥ずかしさから更に俯き涙は止まっていた
店主「泣いても誰も怒らんよ、咎めんし止めもしない。わしはむしろ嬉しいよ、こうしてただの老人を思い泣いてくれることが。その気持ちを大切になさい。人を思いやり優しい気持ちを。それは決して誰でもが持つものではないからの」
32: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:13:25.34 ID:a2seU7mk0
ゴーン、ゴーン、ゴーン...
時を告げるベルは優しく文香を包んだ
そして声高らかに店主は言った
33: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:13:57.05 ID:a2seU7mk0
知った顔がこちらをのぞき込んでいる
ありす「文香さん...!」
ありすは感極まって目端に涙を浮かべながら文香へと抱きついた、そしてはっとしおずおずと椅子にかけ直した
34: ◆/M/./pqGYyzY[saga]
2016/08/03(水) 17:14:27.11 ID:a2seU7mk0
Pは文香が例の時計屋の前で倒れていたこと、たまたま店主が文香の事を知っていて346プロダクションにも連絡してくれた事(この事を口外しない事も)、軽度の熱中症だった事を端的に話してくれた
文香は平謝り、Pも心配こそすれ怒ってはいませんと伝える
そして文香はある事を思い出した
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