7:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 22:55:34.15 ID:Ljuzcmhc0
きまぐれなひとというのか、変わり者というのか、熱心な映画ファンというのか。
台風がやってくるというのに映画を観にやってくる変わり者はわたしたちだけではなかった。
そこまでして映画観たいかな。こんな日くらい、家でDVD観てればいいのに。
はい、これ。と、わたしに何の相談もなしに作品を選んでチケットを買ってきた律先輩がその片方を手渡してくる。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 22:56:43.48 ID:Ljuzcmhc0
☆☆☆
思い切って手紙を出したその翌日、約束した時間の五分前。グラウンドの端にある、大きな樹の下に足を運ぶと、もうすでに、その人は樹にもたれかかるようにして待ってくれていた。わたしの姿に気がついて小さく手を振る。わたしも振りかえす。沈みかけた太陽が長い影をつくっている。その影に隠れて表情がよく見えない。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 22:57:50.91 ID:Ljuzcmhc0
自分の気持ちを、どうやって、どんな言葉で伝えようか。なんどもなんども、眠れなくなるくらい考えたはずの言葉が出てこない。何十回も書き直した手紙をようやく手渡して、あんまり早く着いて先に待ってると逆に引かれるかなと考えすぎて時間ぴったりにここにやってきて、今目の前に唯先輩がいて。たった一言、たった一言なのに。
黙りこくったままのわたしを目の前にして、唯先輩はなにも言わずただじっと、やさしい表情で見つめてくれていた。いつもお茶してるときのダラけた雰囲気とも、ギターを無我夢中で弾いているときとも違う。見たことのない表情で。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 22:58:36.32 ID:Ljuzcmhc0
刻一刻と空の色が変わっていく。
さわさわとグラウンドの土の上に揺れていた木の葉の影も、少しづつ闇に溶けていく。
唯先輩がわたしの手を取り、歩き出した。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 22:59:25.67 ID:Ljuzcmhc0
とっくに閉まっていた校門をえいやと乗り越えて校舎を出る。唯先輩はいつもと逆の方向へ歩き出した。なにも尋ねずに後をついていく。
暗闇にぼんやり光る黄金色に色づいた田んぼの横目に、いくつもの赤トンボが浮かぶ道を並んで歩いた。もう一度手を繋ぎたいな、と今度は自分から手を伸ばしたけれど、すこし前を歩く唯先輩の右手には届かなかった。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 23:00:13.45 ID:Ljuzcmhc0
唯先輩はどこを目指しているか、そもそも目的地があるのか、気分のままとしか思えないような歩き方で、ぐにゃぐにゃと角を曲がって進んでいった。月が空に昇る頃になって、わたしはようやく気がついた。先輩はわたしが話し出すのを待っているのだと。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 23:00:49.53 ID:Ljuzcmhc0
あずにゃん。
それまでずっと無言だった唯先輩が、振り返ってわたしの名前を呼んだ。
わたし、ずっと考えてて。あずにゃんから手紙もらってからずっと考えたんだ。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 23:01:17.37 ID:Ljuzcmhc0
「ごめんね、遅くまで付き合わせて」
「いえ…呼び出したのはわたしですから…」
「そっか。そうだったね。それに明日は休みだし。ちょっとくらい遅くなってもいっか」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 23:01:51.28 ID:Ljuzcmhc0
ここまで悩んで考えてくれるだけでうれしかった。
だからわたしがちゃんと言葉にしてきもちを伝えなきゃ…!
そう思って顔をあげた瞬間、わたしの目に映ったのは唯先輩の涙だった。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/08/20(土) 23:02:21.27 ID:Ljuzcmhc0
☆☆☆
めっっちゃ、おもしろかったなぁー!!
…と鼻息を鳴らしながら律先輩が両手をあげた。
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