過去ログ - 千川ちひろ「紫煙の奥から」
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17: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:39:09.57 ID:Bte9AddR0
 「……そうですね、ここはプロデューサーさんがしっかりサポートしてあげるところだと思います。ですけど」

 「ですけど?」

 「志希ちゃんの話を聞くだけじゃだめですよ? きちんとプロデューサーさんからも歩み寄らないと、です」
以下略



18: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:41:04.91 ID:Bte9AddR0
 「俺はあいつのプロデューサーですし、責任があります」

 「それに、どうせならもっといい景色を見せてやりたいんです。トップアイドルという高みから」

 「……その為には、あいつと対等に向き合わないといけないってことですね」
以下略



19: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:42:47.16 ID:Bte9AddR0
 「……それにしてもここ、なんなんでしょうね」

 気恥ずかしくなったのか、彼が無理に話題を変えてきた。

 「喫煙室なら談話室の横にもあるのに」
以下略



20: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:45:35.34 ID:Bte9AddR0
 その後も気の抜けたボールのように弾まない会話を幾つか交わして、お開きになった。

 わたしもプロデューサーも、明日の朝には仕事が待っているのだ。


以下略



21: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:48:58.62 ID:Bte9AddR0
 「やっぱり、煙草は控えた方がいいんでしょうか」

 わたしがそう尋ねると、彼は首を横に振った。

 「別に構わないと思いますよ。ちひろさんは大人の方ですし」
以下略



22: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:51:14.85 ID:Bte9AddR0
 プロデューサーと別れ、会社を出て駅の方向に歩く。

 まだ少し凝り固まった感覚のある肩を回しながら、最近の自分の運動不足を嘆いた。

 たしかにデスクワークをこなすことに慣れたけど、それに伴ってこんなに身体が鈍ってしまうとは。
以下略



23: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:53:58.75 ID:Bte9AddR0
 柔軟性も、筋力も、体力も、すべてが落ちている。

 予期していたことだけど、それでもやはり心にくるものがある。

 日々の業務に差し障りはないにしても、ただ個人的に自分が衰えていることを自認するのが嫌だった。
以下略



24: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:56:05.91 ID:Bte9AddR0
 誰かに幸せを与えられる存在に、誰かの心の片隅にひっそりと佇んでいられる存在になりたかった。


 自惚れることが許されるなら、過去のある瞬間では、なれていたように思う。


25: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:59:37.03 ID:Bte9AddR0
 あれから何日も経つのに、未だにプロデューサーにライターを返すことができないでいる。

 返さないつもりではないし、むしろ早いうちに返さなければとも思うのだけど、どうしてだかそれは躊躇われた。

 気のせいかもしれないけどそれには、未練のような、浅はかな感情が邪魔しているような感覚がある。
以下略



26: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:02:06.85 ID:Bte9AddR0
 休日や、会社を早く上がれた日の夜にジョギングを再開した。

 走るのに適した服装に身を包み、幾ばくかの小銭だけを懐にしまい込み、無心で走る。

 大抵はランニングコースを何周か。数キロの道のりを、たっぷり時間をかけて。
以下略



27: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:04:24.18 ID:Bte9AddR0
 時折、アイドルをしていた頃の夢を見ることがある。

 舞台に立つその瞬間の緊張や、精一杯覚えたダンスと歌を届けられる喜びを、わたしは追体験する。

 ファンの声援がわたしの鼓膜に張り付く。ステージから眺める彼らが網膜に焼き付く。
以下略



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