930: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/04/06(木) 05:24:39.94 ID:GGWjuIRv0
一方、サポートチームの部屋には見慣れないものが置かれていた。マッサージチェアの頭の部分に、人の頭がすっぽりと入るヘルメットのようなものがある。ひじ掛けの左側には、スティック状のレバーがあり、右側はキーボードの特定のキーがついている。
そのチェアに、すでにエクスが座って背もたれにもたれかかっていて、正面にEVEがスリープ状態で椅子に座っている。伊吹はその右側、いつものエクスが座っているデスクにいた。彼が座っているそれから、EVEとエクスの端末に配線が接続されている。
言うまでもなく、これが発展したVRの姿だ。脳波を感知し、電子世界で起きたことを五感に誤認という形で認識させる。境界線を曖昧にしたことで、世界的にその開発を中止に追いやることになった不遇の科学。しかし、それは表面上の話に過ぎない。
ハックソフトだけではなしえない、まさしく生きたハッキングをするのに、これほど適した手段はないのだ。かつ、VR特有の脳波による操作は、不正アクセスを無効化するのに有効なメリットとなり、重要な研究――それはつまりWWPのプロジェクト群も含む――についてはVR装置からでしか扱えないものも存在している。
EVEのAIは、後者はともかくとして、前者の部分においては有効な手段と言えた。エクスが作製した数パターンの解析ソフトが、全て失敗に終わった以上、彼自身という優れた解析ソフトを使うしかなくなってしまったのだ。
「行くぜ、ナビ、しくんなよ」
いつもの調子で伊吹に頼み、彼はスイッチを起動する。重い、重低音の駆動音が響いて、エクスは電子世界に入っていく。
伊吹は画面に表示される映像と、表示されるデータの確認を始める。彼に、危険があれば意識を戻したうえで接続を強制中断させる。命綱の役割を担っていた。それを失敗すればエクスは戻ってこれなくなる、その考えがちらつくたびに、彼女の呼吸もまた、重くなっていった。
1002Res/822.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。