4:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 21:56:29.40 ID:Sa18P+fH0
酒を飲みながら親父がテレビを占領し、それ俺とお袋が抗議するというのが、実家のいつもの風景だった。
皮肉なもので、いつもの風景の中でよく見ていた「アイドル」のプロデューサーなどというもので、今俺は白飯を食えている。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 21:57:17.44 ID:Sa18P+fH0
常に人を食ったような態度でいるのに、不思議と親父の近くには人が集まった。
部屋の隅で頭に埃が乗るほど年中音楽を聴きかじる、いわゆるサビしいヤツだった俺とは全く違って、いつでも人の中心にいた。
おそらくみんな狸に化かされていたのだ。そうに違いない。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 21:57:46.78 ID:Sa18P+fH0
アイドルのプロデューサーという仕事は存外楽しく、忙しかった。
俺もなんだかんだ言って狸と人間のハーフであるのを、東京に来て初めて知ったのだ。
7:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 21:58:28.79 ID:Sa18P+fH0
そんな狸親父は、晩年「おれは大腸ガンだから、今飲まないと損をする」などと、医者が聞いたらその場で退職を考えるのではないか、というほどの冒涜的なセリフを吐いて、酒をがぶがぶと飲んでいた。
それだけ飲めるならば心配するわけないだろう。大いに飲め。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 21:59:19.09 ID:Sa18P+fH0
手配したタクシーに乗り込む直前、担当アイドルである小梅ちゃんが「大丈夫だよ」と俺に思いっきりハグをした。
身長差があるせいですっぽり覆い隠すような格好で、俺も小梅ちゃんを抱きしめる。
9:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 22:00:13.59 ID:Sa18P+fH0
飛行機は快適にぶっ飛び、約八〇〇キロメートルを一時間と少しで繋ぐ。
何年かぶりの新千歳空港は空気がひんやりしていて、俺はコートも着ずに飛び出したことをひどく後悔した。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 22:00:59.01 ID:Sa18P+fH0
窓を見れば何もない平野にまだまだ雪が残っていて、しばらくしたらその景色はビルに変わっていく。
ターコイズの日本海が見えるまではもう少しだった。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 22:01:38.05 ID:Sa18P+fH0
坂と運河の街が近づく。
その街にはたくさんの日本人と少しのロシア人が住んでいて、旨い酒に旨い肴を今晩も楽しむんだろう。
地酒も地ワインもあることを思い出して、お土産には苦労しなさそうだなどと考えていた。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 22:02:50.92 ID:Sa18P+fH0
「おかえり、早かったね。仕事忙しいんだべ? もしかしたら来れないかと思ってた」
お袋はそう言って、駅で出迎えてくれた。
まだ目の周りが赤くなっていて、どれだけ泣いたのか見当がつかない。
13:名無しNIPPER[saga]
2016/09/17(土) 22:03:24.73 ID:Sa18P+fH0
通夜の晩、親族どもでどんちゃん騒ぎがあった。
その中で俺がアイドルのプロデュースなんてことをやってることが話題になり、親父が小梅ちゃんの出てる番組はすべて見ていたことを知った。
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