過去ログ - 【ひなビタ♪】霜月凛「やまびこ」
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7: ◆khUorI/jDo[saga]
2016/09/28(水) 18:55:14.86 ID:tZz1LPe6o
 喫茶店にとって洋服屋とはそういう存在なのだろう。手の届かない憧れ。目指すべき目標。
同じ場所に立って同じものを見ている今でもそれは変わらない。
私にも似たような経験がある。物理的な距離が近かろうが変わらないのだ。
事実、私は未だ実感が伴わないまま自分の居場所を定めて、空虚なやまびこに怯えている……。

「……気持ちはわかるのだけど」

 喫茶店の視線は所在無げに揺れていて、時折顔色を伺うようにちらちらと私の目を盗み見ていた。
なんだか叱られている子供を前にしているようで、私は妙にいたたまれない気持ちで言葉を続けた。

「洋服屋は研鑽という点において天性のものを持っているわ。要するに努力が上手いの。
 その効率と吸収量には個人差がある……安直に練習量だけを増やして追いつこうとするのはあまりいい方法ではないわね」

「りんちゃんは、私がイブちゃんに追いつけないと思いますか?」

「ギターとベースを比較するのもなんだけれど、技術の話なら可能ね。
 けれど貴方の言う『追いつく』というのはもっと広義的なものではないかしら」

 言いながら、私は自分の愚昧さに呆れ返っていた。彼女を説き伏せて何になるのだろう?
これは逃げの一手だ。この後の流れもおおよそ予想はつく。
私はこのまま喫茶店を論理的に励まして、喫茶店は納得できないままに私に感謝の微笑みを向けるのだろう。
ごめんなさい、私、変なことを言いました、と。

 意味の無い会話だ。つまりこれも空虚なやまびこなのだ。
私は私を演じ、その結果として聞き分けのいい優等生を演じる喫茶店の申し訳なさそうな笑顔が返ってくる。
今までも何度か繰り返した、いつも通りのやりとりだった。

「……そうですね。私、イブちゃんみたいに上手くなりたいんじゃなくて、イブちゃんみたいになりたいんだと思います」

 喫茶店はそう言って窓の外に視線を移した。つられて外を見ると、景色はすっかり色を変えていた。
店内は暗く、喫茶店の表情が良く読み取れない。それを少しだけありがたいと感じた自分に少なくない嫌悪を抱いた。


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