50: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:13:23.77 ID:1dmR7XxL0
兄弟はすっかり私の剣幕に圧されて萎縮しているが、ビアンカは思案顔で俯向いている。
すると何を思ったかそれじゃあ私たちがそれを退治すればいいのねと兄弟の提案を呑む様子だから驚いた。
兄弟らはうんうんと二つ返事で了承する。私は納得しかねたが、年長者が極めたことなので文句の云いようがない。
ビアンカの方もお化け退治ねと興奮気味で話が通じそうにないから私はやれやれと首を振るばかりであった。
51: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:14:15.82 ID:1dmR7XxL0
そうと決まれば行動は早い。早速出立だと町を出ようとすると例の門番が機敏に邪魔をする。
しかも帯刀しているから物騒で近寄り難い。どうしたものかとあぐねているとビアンカが耳打ちをしてきた。
曰く夜にはこの門番は鼾を立てて居眠りをしてしまうのだという。
私が驚いて夜の当番の者は居ないのかと云うときょとんとしているから呆れた。
ここの住人は町の警備をすっかりこの男一人に委任しているようだ。
52: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:16:01.33 ID:1dmR7XxL0
夜になるまで待つとなれば昼に行動していては差し支えるから早めに寝ることにする。
宿に戻ると名無しのおかみが必死に父を引き留めている。
様子から察するに日の上がらない内に出立したい父をどうにかして宿に泊まらせたいようだ。
父が迷っているのでこれ幸いとせっかくだから泊まりましょうと云うとお前がそう云うのなら、と渋々承諾してくれた。
ダンカンのおかみはそれを聞いて飛び上がるように喜んですぐに部屋を手配してくれた。
53: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:16:32.53 ID:1dmR7XxL0
案内されてみればなんと最上階のスイートである。
調度品の質はそれほどでもないが手入れが丁寧ですこぶる過ごしやすい。
私はちょっと寝ますと云ってベッドに潜り込んだ。
父もそうか、それじゃあ私も休もうと云って随分と間を空けて並べられたベッドに臥せる。
大して体を動かしたわけでもないのにすうっと意識が遠ざかるので余程ベッドの寝心地が良かったんだろう。
54: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:17:42.96 ID:1dmR7XxL0
ビアンカの呼びかけを無視して狸寝入りを続ける。
すると突然口と鼻をつままれた。必定息が出来なくなるので苦しくなる。
ベッドから飛び跳ねて目を白黒させるとビアンカの方は起きたわね、と一口で済ませる。
危うくずっと起きたわねができなくなりそうだったので冗談ではない。
さあ、レヌール城へ行くわよと溌剌に云うので随分元気な奴である。
55: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:18:32.17 ID:1dmR7XxL0
外に出てみれば町はしいんと静まり返っている。
酒場があるのにこの様子だからやっぱり田舎だ。ただ夜中に酔っぱらいが大騒ぎをしてうるさくなったりしないのは健全でよろしい。
町の入り口に向かうと例の門番が横たわっている。
しかも寝具も何もない地べたにごろんと雑魚寝をしているから傑物である。
56: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:19:23.34 ID:1dmR7XxL0
町を出て野を越え山を越えるとやがてうらぶれた古城が見えてくる。
城下に町の痕跡がないところを見ると遙か昔に滅びたもののようだ。
それに劣化の仕方が悲惨でおどろおどろしい。それこそお化けや魑魅魍魎が住み着いていてもおかしくない。
正門は堅く閉ざされているので裏に回れば壁が崩れていて容易に侵入できる。
螺旋階段でなく梯子なのが気に掛かるが、昇って中に入ると棺桶が整然と並べられている。
57: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:20:52.08 ID:1dmR7XxL0
退路は塞がれてしまったので進むしかないが、部屋の奥にある階段に足を掛けた途端に握っていた感触がふわりと消えた。
振り向くとビアンカがいない。いたずらかと思えば彼女の悲鳴が聞こえるからこれはまずいと焦りが生じる。
慌てて辺りを見渡すがあるのは棺桶ばかりで、念のため蓋に手を掛けるがうんともすんとも云わない。
仕方がないから先へ進むと次は棺桶の代わりに騎士の鎧が置かれた部屋に着く。
先ほどよりはましだと思って進むと目の端で動くものがある。
58: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:21:54.16 ID:1dmR7XxL0
奥のドアをくぐると屋上庭園のような所に出る。もっとも真ん中に大きい墓が二つも据えられていておよそ風流とは無縁であった。
立派な墓だと思って眺めていると片方の墓碑銘に私の名前が刻まれているのを見て仰天した。縁起が悪いどころの騒ぎではない。
もう片方には「ビアンカ」とある。これはと思い中を改めれば血色の良い女子が中で横たわっている。
名を呼んで揺り起こすとビアンカはうめき声を上げて体を起こした。
聞けば階段の上で突然意識を失って、そして目覚めてみれば暗闇でしかも固い石に八方を囲まれていて本当に恐ろしかったからそれでまた気絶したとのことだ。
59: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:23:17.30 ID:1dmR7XxL0
庭園には私が入ってきたのとは別にもう一つ入り口がある。戻っても仕様がないので先へ進む。
するとまたさっきみたような目にあってはごめんだと云わんばかりにビアンカが体をひっつけてくるから別の意味で緊張した。
本棚が点々と置かれた部屋に着くと窓際におかしなものが見える。
薄らぼんやりと青く光る靄のようで、しかも人の形をしている。
少し警戒したがその靄はこちらを一瞥するとすうっとかき消えた。
60: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:25:25.76 ID:1dmR7XxL0
本棚が動いた元の場所には階段がある。本棚の下敷きになって隠れていたらしい。
降りた先の部屋に入ると先の人型の靄が豪奢なソファでお茶をしている。
悪霊の類であればとっくに危害を加えてくるのでこれは安全と判断して近づくと、突然独白を始めた。
曰くこの靄は城の王妃の御霊で、十数年前に魔物に滅ぼされて以来成仏できずにいると云う。
どうも高貴な身分の子供を攫うのが魔物らの目的だったらしいが、この王妃には子供がいなかったので腹いせで殺されたと云うから甚だ不憫である。
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