過去ログ - サンチョ「坊つちやん」
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61: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:26:11.19 ID:1dmR7XxL0
 繰り返すが私は弱い者虐めが大嫌いだ。
 ここに来る羽目になった発端の兄弟らにしても、何も豹から離すだけなら殴る必要はなかった。
 何より弱い者を虐めて楽しんでいる連中に腹が立ったから殴りつけたんである。
 ここの幽霊も人を見えない所から驚かしたり力のない女子供を閉じ込めたりするような卑怯な俗物の一部と見る。
 そうとなればお化け退治どころではない。生きていようといまいと必ず根絶やしにしてやるとこの時心に誓った。
以下略



62: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:27:19.68 ID:1dmR7XxL0
先の廊下に戻って別の部屋へ入るとまた階段がある。
 どうもこの城は階段ばかりで気が滅入る。もっとも他の城の構造も禄に知らないからみんな似たようなものなのかも知れぬ。
 階段を降りるとその階だけ光が一切なく、全く闇に閉ざされていたので驚いた。
 窓があって蝋燭もかかっているのに闇とは実に不思議だったが、夜に建物の中――殊に人の住まない廃墟であれば猶更――へ赴けば目盲になるのは当然である。
 松明を用意しなかった迂闊を後悔したがもう遅い。先ほど奮い立たせたばかりの勇気が縮こまってしまいそうになる。
以下略



63: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:28:33.33 ID:1dmR7XxL0
 階下は月明かりが漏れていたので闇ではないが、上と下が明るくってそこだけ暗いのはいよいよ不思議である。
 すると突然目の前を王妃のものとは違う靄が部屋を駆け抜けた。
 これも悪霊ではなさそうだから追いかけると、はたして王冠を乗せた立派な威厳の王様であった。
 やはり先の王妃と似たようなことを頼むので二つ返事で了承しておいた。
 しかも先ほど暗い階があったろう、あそこが親玉の巣くう本拠地で、そいつをこらしめればここの悪霊も消え去るだろうと何の根拠もない情報を寄越してきた。
以下略



64: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:29:07.12 ID:1dmR7XxL0
 来た道を引き返そうとすれば王様が我々に立ちはだかってこらこら、若い者はせっかちでいかんと説教をする。六歳児に向かって若者た余計なお世話だ。
 しかし今親玉に立ち向かっても辺りが暗くては何もできまいと云われるとこちらは何も云えない。
 黙した我々を見ると王は地下の厨房の壺に松明があるから取って来いと云う。
 そこらの松明で好かろうと云うとあれは聖なる加護を受けた特別なものだからそれに越したことはないと云われる。
 なぜそんな霊験あらかたな品物が厨房の壺なんぞに納められているか甚だ疑問だが、それで闇を払えるのなら取りに行く他ない。
以下略



65: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:30:16.01 ID:1dmR7XxL0
 先へ進むと王や王妃みたような人魂がふわふわと浮かんでいて、しかも怨嗟の声を上げるので一層不気味だ。
 階段をいくつか降りていると厨房らしき所に着く。壁には明かりが灯っているので暗くはなかったが鼻をつく異様な臭いには閉口した。
 中央のテーブルに料理があるのでそこから漂っているのだろうが、全体どんな味付けをしているのか気になる。
 料理人と思しき幽霊と骸骨の魔物がテーブルを囲っていたが作業に夢中でこちらに気づいていない様子だからこっそり後ろを通った。



66: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:31:17.64 ID:1dmR7XxL0
 厨房の奥にははたしてみすぼらしい壺があった。
 手を突っ込んでみれば手に当たるものがある。
 引っ張れば何の変哲もない松明だから感動は薄れたものの必要な品は手に入れたので来た道を戻った。
 王の所まで戻ればそなたらの勇気に期待している、頑張り給えと偉そうな激励をもらったので精々頑張りますと返した。



67: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:34:13.31 ID:1dmR7XxL0
 落とし穴の底は白い陶器の皿で、野菜や焼き鳥などが盛られている。落下の衝撃で目を回していたらひい、私にはできないと怯えた声が聞こえた。
 見るとさっきの厨房で調理をしていた骸骨と幽霊である。意地悪な顔をした骸骨が躊躇う幽霊を脅してきりきり味付けしろと命じている。
 どうも地下の厨房まで真っ逆さまに落とされたようだ。それで無事なのは幸いだが、もう間もなくおいしく調理されてしまう。
 早く逃げねばと奮い立たせるが足が痛んで動けない。そうこうするうちに我々が乗っている台が皿や料理ごと上へがたんがたんと音を立てて登っていく。



68: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:35:34.38 ID:1dmR7XxL0
 台が上がりきると城の中でも一際広い部屋に着く。その時は呑気にもこの城にも広間があるのだななどと思ってしまった。
 食膳台の周りにはさっきのと似たような骸骨が涎を垂らしてこちらを見つめている。 こりゃうまそうだなどと云って襲い掛かってくるからビアンカと一緒に全て叩きのめしてやった。
 さっきまで骸骨だったのに戦う場面では蝋燭の形に見えたからあの料理人が掛けた調味料に幻覚剤でも入っていたんだろう。
 広間を見渡せばなんと人間の霊がワルツなぞ踊っている。
 こんな時に不謹慎だと思ったがそうではなく、例の悪霊共に操られて無理矢理踊らされているのだと云う。
以下略



69: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:36:56.25 ID:1dmR7XxL0
 すると玉座に例の奴が居ない。隠れてないで出て来いと玉座を蹴っ飛ばすとバルコニーから物音がした。
 駆け付けると親玉が文字通り右往左往している。我々を落とし穴に嵌めたのは良かったが予想外に早く戻って来たので混乱しているのだろう。
 先手必勝と殴りつけるとうわあと間抜けな声で転がった。すぐに立ち上がって骸骨共は食べ損なったか、では私が食ってやろうと虚勢を張っている。
 親玉とはいえ所詮田舎町のはずれにあるうらぶれた廃墟に巣くう雑魚共の指導者程度ではたかが知れている。
 ビアンカのルカナンで守備力を下げてたこ殴りに徹すれば勝敗はあっけなく決した。
以下略



70: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:37:33.00 ID:1dmR7XxL0
 止めを刺すために獲物を振りかぶると何と城からは出て行くから助けてくれなどと命乞いをする。
 呆れた奴だ。貴様もそうして命乞いをしてきた奴らを何人も屠ってきたのだろうと詰め寄れば親玉は目に涙を浮かべて違う、おれたちははみだし者で住む所がないからここに来たんだよ、人は殺していないと嘘を吐く。
 ではなぜここの住人は恨めしがっているのか、まさか勝手に死んだわけじゃあるまいと問い詰めるとおれたちよりずっと偉い奴がいて、そいつがここを滅ぼしたんだと云う。



71: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:38:39.68 ID:1dmR7XxL0
 聞いてみれば合点の行く話だ。この城には王位を継承する子供がいないから腹いせで襲ってきたのだと王妃は云ったが、気分で攻め滅ぼした場所に住まうほど最近の魔物も馬鹿ではない。
 何しろぼくはわるくないよなどと云って難を逃れようとする輩までいるくらいだ。
 少しでも賢ければ足がついて近くの国に討伐されてしまうことくらい分かる。
 それにここの魔物は些か弱すぎる。戦闘に慣れているとはいえ子供二人に壊滅させられるような弱小な軍団では城を持つ大国など歯が立たぬだろう。
 急にこの悪霊の親玉が可哀そうになった。何も望んでここまで足を運んだわけではあるまい。きっと迫害された末に辿り着いた安息の地だったのだろう。
以下略



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