過去ログ - 【ペルソナ5 奥村春SS】春のまにまに
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42:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:12:23.82 ID:sIrnBUYZo
 もうやだちゃんと喋れない。年下のこの子はなんでこんなに落ち着いてるの。私はこんなにドキドキしてるのに。

「君は、これでよかったの?」

「何が?」
以下略



43:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:13:54.90 ID:sIrnBUYZo
 彼は事も無げに、私が言ってほしい台詞を選択しているかのように話す。

 それを聞いた瞬間、一人で抜け駆けしている罪悪感は彼への愛しさに転換された。二人きりで会えることの歓喜と愉悦が、後ろめたさをすべて覆い尽くした。

「私も……会いたかったよ」
以下略



44:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:14:45.31 ID:sIrnBUYZo
「ごめん、でも早く確認したくて。二人で会おうってつもりだったのに、春はそれが嫌でみんなに伝えたのかなと」

「そんなわけないじゃない。私も何がなんだかわからなかったの」

「そう、ならよかった」
以下略



45:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:15:55.73 ID:sIrnBUYZo
 思えば、彼からは私にとって"はじめて"な出来事をもらってばかりだ。彼は私と違って経験豊富そうだけれど、私からもあげられる"はじめて"は何かあるのかな。

 そこで、ふと邪な、邪なのかな……?

 とにかく、口に出すことなどとてもできない、彼にあげられる……貰ってもらう? 私の"はじめて"が頭をよぎり、握る手に力が入ってしまった。
以下略



46:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:16:48.85 ID:sIrnBUYZo


 過ぎてほしくない時間ほど早く過ぎ去るものだとは聞いていたけれど、喫茶店───彼と二人きりで過ごす部屋───に到着するまでの道のりは、それを最もわかりやすい形で体験できる短い旅路だった。言い過ぎじゃなく感覚的には来たときの半分ぐらいの距離に感じた。

 ルブランの扉の前に着くと、どちらからともなく繋いだ手が離れた。最後は指先を伸ばして名残惜しさを彼に伝えた。
以下略



47:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:17:34.75 ID:sIrnBUYZo
「こ、こんばんは。すみません、夜分遅くに」

「あれ、さっき帰ってたよな? 忘れ物か何か?」

 優しく聞いてくるおじ様の顔を見て胸に棘が刺さった気がした。どう返事をしよう、嘘を吐くのはよくないけど……。
以下略



48:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:18:32.10 ID:sIrnBUYZo
「……わかった」

 二人で入り口近くに立ち、おじ様の帰り支度を待った。

「嬢ちゃん、あまり遅くならないようにな。お前にも一応言っとくが……、いや、なんでもねぇ。ごゆっくり」
以下略



49:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:19:17.68 ID:sIrnBUYZo
 妙に落ち着かなくて、部屋に向かう階段を昇りながら彼に話しかけた。

「嘘、吐いちゃったね」

「まあわかってて見過ごしてくれてるんだし、別にいいんじゃない?」
以下略



50:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:20:07.40 ID:sIrnBUYZo
 人のいない屋根裏部屋を見渡すと、さっきまで私もいた同じ場所のはずなのに、お昼とはまったく違う印象を抱いた。ここにあったみんなの優しさとあの喧騒は消え、微かな残り香のみを漂わせている。

 誰に話しても信じてもらえないような縁で繋がった私たちも、彼が地元に戻ってしまったように、いずれみんな別々の道を歩み始める。この春からは私とマコちゃんも大学生だから、こうして集まれる機会も徐々に少なくなっていくのだろう。

 一瞬だけそんな感傷に浸り、目線を下に落とした。すぐそこに彼の脚が見えた。
以下略



51:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:21:11.49 ID:sIrnBUYZo
 おかえり。

 ただいま。

 私の帰ってくる場所。帰ってこれる場所。ほっとする心地好さ。私の居場所。
以下略



52:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/29(土) 23:22:22.33 ID:sIrnBUYZo
「君、わかって言ってるでしょう?」

「さあ。なんのこと?」

 彼の声が耳元から私の中に入り、身体中に広がっていく。とぼけたような言い方も全然憎らしくなくて、愛しくてたまらない。
以下略



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