6:名無しNIPPER
2016/10/26(水) 01:33:03.28 ID:DdD2BNiL0
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タクシー運転手に事情を話し、名刺の住所から事務所までの距離をカーナビで検索して貰い、大まかな見積もりを元に料金を先払いする。
一通りの準備を終え、褐色肌の少女ナターリアに俺は演技ぶって言った。
「御者の準備が整いました。さあお城へどうぞ」
他愛もない雑談ですっかり打ち解けた様子の聖來に背中を押され、ナターリアは後部座席にチョコンと座った。
嬉しくてしょうがないのか、ニッコニコの笑顔には、千切れんばかりに振られる尻尾が似合いそうだった。
うん、間違いない。この子も犬系だ。
「オーディション、頑張ってね♪」
バタン!とドアが閉まり、タクシーがウィンカーを出した頃、手を振る聖來と俺に、ナターリアは窓を開けて叫んだ。
「アリガトー頑張るヨー!Pさんもセーラも大好きダヨー!」
太陽の様な笑顔と元気な声。
正にサニーパッションに相応しいアイドルになることだろうが、こればっかりは伊吹担当Pの胸先三寸だ。
「Pさん良かったの?タクシー代」
気遣う様子も見せない、確認するような聖來の言葉に、俺は頷いた。
「アイドルになって稼いで返してもらえりゃ構わねえよ」
「オーディション落ちちゃったら?」
「俺が拾う」
「そっか♪」とご機嫌な言葉で笑う聖來に鎌をかけてみる。
「ウチに来てくれたらいいなあ、なんて思ってんだろ?」
「うん。まあ……少し」
聖來も俺も、一発で見抜いていた。
ナターリアの得意分野はダンスだ。
聖來をスカウトし、伊吹との交流が増え、セーラーマリナーが激しいダンスを武器に活動を始めた頃に気付いた、ダンサー特有の重心の高い立ち方。
それを、ナターリアは自然としていた。
地を踏み締めて全身を揺さぶるダンスにおいて、重心の移動は重要なテーマだ。
手元の物を転がす方が下から物を拾うより楽な様に、ダンサーは高い位置で重心を操る。
そしてダンサーのキャリアを積めば積むほどに、それは癖になり、立ち姿にまで影響を及ぼすのだ。
14歳でそれが身に付いているとは、流石サンバの国出身、と言ったところだろうか。
「さて、まだ1時間半位待つようだし、今度こそ上で茶でも飲もう」
「うん♪」
歩き出す俺に、聖來が続く。
そっと絡めて来た手は、温かかった。
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