過去ログ - 聖來「夢と現とあたしと貴方と」
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9:名無しNIPPER
2016/10/26(水) 01:36:56.59 ID:DdD2BNiL0
全く、けしからんアイドルだ。
もう終わった後の心配か。

ついさっき、俺たちはナターリアという少女に出会った。
アイドルになりたくて、アイドルになりに日本に来た、ブラジル人の少女。
希望に満ちた彼女の顔は、文句なしに輝いていた。
しかもその魅力はまだまだ強まっていく。
今後もきっと輝かしい未来がナターリアを待っていることだろう。

一方で、それと入れ替わるように水木聖來は日本を発つ。
彼女の経験史上最も大規模で、最も輝かしいステージに立つために。

出発の寸前まで、彼女は大いに浮き足立っていた。

当然だ。
我が事務所に、ここまで大きなステージに、ソロで立った者はまだ誰もいないのだから。

この公演は、下手をすれば会社の今後すらも左右する重要なものだ。

だが、もしこれが絶頂だとしたら、彼女はどうだ?
この公演が、水木聖來のアイドル人生最高の瞬間だとしたら、どうする?
これ以上の活躍を今後見込めない、と判段されたらどうなる?

彼女の行うアイドル活動は、部活動でもサークル活動でもない、商業としての興行だ。
商業的に価値がないと見なされたらどうする?

聖來本人もよく言う言葉だが、俺たちもいい大人だ。

その意味が分からない訳じゃない。

勿論。
自信がない訳じゃない。
不安もない訳じゃない。

でも何より考えてしまうのだ。

大人だから。

先の可能性が見えてしまうのだ。

大人だから。

トランク片手に希望を抱き、異国に渡ったナターリアが眩しく見えるほどに。

しかしなあ、水木聖來。お前1つ勘違いをしてるぞ。

「舐めんなよ、聖來」

聖來と俺の間にあった僅かな間を、一気に詰める。

そして小さな頭を覆うハンチングの鍔を思い切り下げてやる。

眼鏡共々滑り落ちそうで慌てふためく聖來の頭に顎を乗せ、脳天に響けとばかりに声を張り上げた。

「ニューヨークだけで終わると思ってんのか?まだまだまだまだ、仕事取ってくるぞ、俺は」

聖來の顔のすぐ脇で、指を折って見せる。

「全米ツアーにヨーロッパツアー、アジアツアーにオーストラリア公演。ソロでもユニットでも回って貰うぞ。もしナターリアをうちが引き取ったら二人でブラジル凱旋公演だ」

顎を離し、中腰になって伊達メガネとハンチングを直してやる。

呆気にとられた頰を指で突きながら笑って見せた。

「覚悟しとけよ、色んな所で歌って踊って魅せて貰うからな」

心配が尽きないのは大人の証だ。

人は大きくなるたび選択肢の多さに気付いていく。

そして、辟易とするのだ。

選択肢ばかり増えていくのに、自分はちっぽけな子供のままだと。


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