過去ログ - 古風な愛 【原著:星新一 ・ ごちうさ訳】
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11: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:39:11.24 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんのお父さんは、わたしが話し始めると、気難しく顔をしかめて言った。

「言い分はわかっている。そのことについて話し合うことはない」

とりつくしまがない口調だった。
以下略



12: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:39:38.58 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんは父とわたしの板挟みになって、ますます悲しそうに、苦しそうになっていった。
やけを起こすような性質ではなく、まじめに考え、何とか方法を見つけようとしていた。
しかし、方法は無かった。


13: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:40:14.65 ID:MgkQzc3L0
父親にたのみ、そのたびに拒絶されているせいか、チノちゃんは痛々しいまでに弱ってきた。
悩みつづけ、気力も弱ってきたようだった。


「私、死にたいです」
以下略



14: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:40:43.77 ID:MgkQzc3L0
それからは、二人で話すときは死の話ばかりをした。
わたしといっしょに死ぬことを考えると、彼女は楽しくなるらしく、動作もいきいきとしてきた。
それがいかにすばらしく、美しく、幸福なことかを、くりかえして口にするのだった。


以下略



15: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:41:15.32 ID:MgkQzc3L0
景色のいいホテルだった。
部屋の窓からは、湖だの、森だの、遠い雲だの、すがすがしいものばかり見えた。


わたしは一日のばそうかと言ったが、チノちゃんはすぐのほうがいいと言った。
以下略



16: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:41:41.09 ID:MgkQzc3L0
チノちゃんはビンから錠剤を出し、手のひらにのせた。また、わたしの手のひらにも半分をのせてくれた。
彼女はためらうことなく薬を口にいれ、目をつぶってコップの水を飲んだ。


そのあいだに、わたしは薬をポケットに移し、水だけを飲んだ。
以下略



17: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:42:08.73 ID:MgkQzc3L0
「眠くなってきました……」


と彼女が言った。わたしの頭はさえきっていたが、やはり同じように言った。

以下略



18: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:42:36.33 ID:MgkQzc3L0
薬が効いてきたのか、彼女の声はかすかになり、目を閉じた。


「……わたしをしっかりと抱いていてください」

以下略



19: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:43:03.58 ID:MgkQzc3L0
しかし、わたしはなすべきことに気づき、ポケットの薬をビンに戻し、ドアから飛び出して大声をあげた。
かけつけてきたホテルの係に、ちょっと外出したあいだに薬を飲んだらしい、と告げた。
ホテルじゅうにざわめきが波紋のようにひろがっていった。


以下略



20: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:43:30.53 ID:MgkQzc3L0
わたしはチノちゃんの家に帰り、自分の部屋に閉じこもり、コーヒーを自分で淹れて飲んだ。
ほかに何もする気になれなかった。


21: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2016/10/29(土) 18:43:57.98 ID:MgkQzc3L0
ドアの方で訪問者のけはいがした。
わたしが応答しないでいると、客は勝手に入って来た。
チノちゃんの父親だった。彼は沈痛な表情と絞り出すような声で言った。


以下略



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