14: ◆zPnN5fOydI
2016/10/30(日) 14:46:21.71 ID:JntGMmXe0
満潮と霞の甲高い足あとが聞こえなくなる頃。すすり泣きがテーブルに響く。
「朝潮姉さん、朝潮姉さん・・・」
荒潮の泣き声が空間に響く。
艦娘時代、朝潮と荒潮は、性格的に仲が良かった。きっと、姉妹で一番仲が良かったのは荒潮だ。
そして朝潮が書類作業に移った時、一番最初に朝潮を忘れようとしたのは荒潮だった。
朝潮のことを心配しては、戦いに集中できなかったのだ。
もしも朝潮がこの場にいれば、戦いという使命を果たすべきと言うに決まっている。
そう思い、荒潮は必死に、朝潮のことを忘れた。戻ってきたら、自然に思い出すはずだから。
しかし、朝潮は戻ってくることなく、荒潮は本当に忘れてしまった。
そうやって眠っていた記憶の断片が、少しずつ、荒潮の頭を覆い尽くす。
そして、行き場のない感情に荒潮は、ただ泣くしかなかった。
「あの・・・私達も、帰ります。気持ちの整理がつかなくて」
「うん・・・ちょっと、あまりに急激で・・・」
朝雲、山雲が席を立つ。
彼女たちは看護師として、病気の人と毎日接する。そして、臨終する人もいる。
回復し、笑顔で退院する人。難病で長期入院する人。死を受け入れて、自宅療養やホスピスに転ずる人。
癌の末期延命治療の下で、殺してくれと叫びながら、断末魔の中に死んでいく人。
そして、自殺で運ばれてくる人など。
色々な人が色々な人生を歩んでいく中で、長生きが幸せかは分からない。早死にが不幸かも分からない。そして、自殺というものも。
そんな二人にとって、身内の自殺というのは、どう受け入れるべきものかが分からなかった。
4人が帰り、残ったのは、呆然としている大潮。泣いている荒潮。黙って俯く霰の3人。
提督は相変わらずじっと目を瞑っており、明石は涙を溜め、目をぎゅっと閉じて俯く。
明石は、朝潮型姉妹のためを思い計画し、罵倒された現状に、やりきれない気持ちが募っていた。
沈黙の長い時間が流れる。姉妹は3人共、頭の整理に夢中だ。
そんな静寂を、提督が打ち破る。
「そろそろ時間だ。店を出よう。」
提督はすっと立ち上がり、会計を済ます。他4人は混乱する気持ちの中で、帰り支度をする。
帰り道。泣く者はいないが、誰も口を開かず、ゆっくりと帰路につく。
別れ際にも目を合わせず、軽く会釈をするのみで、それぞれの家へ帰っていった。
***
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