過去ログ - 【ワールドトリガー】冷見「解散……しちゃうのかな?」【二宮隊の夏】
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2: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 09:40:21.51 ID:UJcK9QmZ0
「…………うん。」

長い沈黙のあとでひゃみさんが目を伏せたまま発したのはそれだけだった。



3:名無しNIPPER
2016/11/20(日) 09:46:25.97 ID:UJcK9QmZ0
僕こと辻新之助とひゃみさんこと氷見亜季はボーダー本部からほど近いバス停で帰りのバスを待っていた。

「あの日」というのは、僕とひゃみさんが所属する二宮隊のスナイパー、はとさんこと、鳩原未来先輩の失踪が発覚した日のことだ。

この事件によって、僕たち二宮隊は3週間の謹慎を受けた。と言っても、処分が決定する迄の間ボーダー本部への立ち入り禁止と、防衛任務の免除を受けただけで学校へは普通に通った。そして、今日、晴れて謹慎が解けた二宮隊に待っていた処分とは、B級への降格という余りに重いものだった。
以下略



4: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 09:47:59.34 ID:UJcK9QmZ0
「まだ、梅雨入りしてないのに、今月は本当に雨多いよね」

鬱陶しい雨音がまとわりつくなか、ようやく顔を上げたひゃみさんの笑顔は眩しかった。でも、それが努めて明るくしようと、振り絞られた笑顔と言葉だったことは、かすかに赤味がかった瞳を見れば明らかだった。



5: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 09:49:09.55 ID:UJcK9QmZ0
言いしれない後悔が僕を襲った。先の無神経な発言だけではない。こんな時にも拘らず、いやこんな時だからこそ、早くひゃみさんと二人になりたいと思っていたつい先刻迄の自分に対する後悔だ。

その一方で、自分になけなしの笑顔を向けている健気で儚い彼女を強く抱きしめたいという場違いで発作的な思考も同時に抱いては、より一層後悔を深めるのだった。



6: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 09:52:01.32 ID:UJcK9QmZ0
「……辻くん?」
彼女の心配そうな表情が、彼女を無言のまま見つめているという現実に引き戻させ、僕は慌てて顔を背けた。しかし、その照れ隠しも無駄であろうことは、耳の先に迄伝わっている頬の熱が物語っていた。それを知ってか、或いは本当に何も気づいていないのか、彼女は、

「辻くん。熱があるの?もしかして、雨に濡れたんじゃない?」と聞いて来る。何れにしろ彼女の気遣いが有難かった。



7: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 09:53:32.27 ID:UJcK9QmZ0
「……熱だな、確かに、」

何の熱かは言わなかった、いや、言えなかった。彼女の心配そうな表情に耐え切れず、僕は椅子から立ち上がり、言った。
「あ、バス来たよ」
煙のような雨のカーテンをヘッドライトの光でゆっくりと裂きながら白いバスはやってきた。


8: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 10:25:35.58 ID:UJcK9QmZ0
当然というか、いつも通りというか、バスの客席には誰も乗っていなかった。それもそのはず、ボーダー本部基地周辺には民家なんて一つもないのだから。よって、バスの利用者は警戒区域外と基地とを往来する人間、つまりはボーダー関係者に限られていた。

しかしながら、成人の本部職員は自分のアシがあるし、アシのない、戦闘員の大半をしめる学生達もチャリ通を好んだため、実際にバスを利用しているのは、蓮乃辺市に住む自分やひゃみさんのような自宅から本部基地がかなり遠い学生の一部だけだった。

僕はいつも通り奥から2番目の奥側の席に座り、ひゃみさんもいつも通りその隣である通路側の席に座った。


9: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 10:26:21.43 ID:UJcK9QmZ0
肘を窓の桟にかけ、頬杖をついて窓の外を見る。と言っても、激しく打ち付ける雨がその視界を遮るのだが。

お互いが根っからの口下手、というより口数が少ない方なのでバスの中では特に世間話に花が咲くということもない。隣り合い、ただゆらゆらと揺られるだけの時間が流れる。ただそれだけの短くて、静かな時間、だが、それこそが今の僕の全てだった。

ただし、普段ならば心安らぐこの沈黙の間が、今日は苦痛の種だった。


10: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 10:26:59.08 ID:UJcK9QmZ0
「解散……しちゃうのかな?」
そのか細い声はいつになく震え、その眼差しは焦点を逸していた。


11: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 10:27:35.39 ID:UJcK9QmZ0
予想もしていなかった……といえば嘘になる。僕の知る限り、今迄ボーダー隊員の中で重要規律違反になった隊員はいないし、A級からB級に降格したチームなんて聞いたこともない。今しがた作戦室からの退去に勤しんでいた隊員達の絶望感が織りなす雰囲気は今思い出しても吐き気を催すほどだった。



12: ◆jPpg5.obl6[age]
2016/11/20(日) 10:28:42.81 ID:UJcK9QmZ0
「どうしたら良かったのかな……?何が間違ってたのかな……?」

彼女はぽつりぽつりと呟く。前を見据えているようで、何も見ていないようにも見える彼女は、果たして自分に問いかけたのだろうか、それとも彼女自身?応えるべきか、或いは何と応えるべきか決めかねる間に彼女は続ける。

「未来先輩は優しかった……強かった……いつも誰よりも気を配って……誰よりも皆の役に立とうとして……誰よりも努力してた……」
以下略



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