8:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:45:36.01 ID:aK0UkAGEo
仕事から帰り、アパートの自室で夕飯の支度をしていると、玄関のベルが鳴った。
あなただとすぐに分かった。
「どうしたんですか?」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:46:24.23 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
季節の巨大なうねりが街を支配するようになってどれくらい経っただろう。
一昨日は秋の終わりだった。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:48:10.01 ID:aK0UkAGEo
夕闇に静まり返った大通りの靴屋は閉店時間ギリギリだった。
店員さんがカーテンを閉めている最中で、私たちは遠慮がちに中へ入って行った。
二人でブーツを選んでいると店内の照明がパチ、パチと消えて、私たちのいるレディースコーナーだけが煌々と照らされた。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:49:14.81 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
バスに乗って隣の第三地区へ向かった。
雪がみるみるうちに積もって夜の景色を白と影の平坦な模様に変えていた。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:50:22.22 ID:aK0UkAGEo
しばらく歩くと、人気のない自然公園に出た。
大きな池があり、そのほとりには短い秋季のために枯れ切らなかった広葉樹が雪を被ってうなだれていた。
遊歩道の景観照明にライトアップされた白い雪の花は満開の桜並木のようだった。
私たちは思わず息を潜めてそこを歩き過ぎた。
13:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:35:49.82 ID:zJemO0Izo
◇◆◇◆
思えば、あなたほどの有名人が隠れ家を持っていないわけがなかったのだ。
「何も置いてないのね。テレビもラジオも……」
14:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:36:40.98 ID:zJemO0Izo
その日、私は従順の殻を脱ぎ捨て、余計なものを一切排除した純粋な愛の巣であなたと二人きりの夜を過ごした。
私は熱に浮かされたようにあなたを求め、そんな私をあなたは行為で満たしてくれた。
空調の効いたベッドルームで、次第にどっちがどっちの体温か分からなくなるほどに。
15:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:37:20.27 ID:zJemO0Izo
「季節予報、はずれちゃいましたね」
先に目を覚ましたあなたがカーテンの隙間から外を覗き込んで言った。
私はまどろみつつ半身を起こし、暖かな朝日が差すあなたの横顔の、そのまぶしいシルエットをぼんやり眺めていた。
16:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:38:09.59 ID:zJemO0Izo
◇◆◇◆
「これ、どこまで続いてるのかしら? もうだいぶ歩いて来たけど……」
私は砂漠に沈んだ廃墟の群れを見渡して言った。
17:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:39:42.01 ID:zJemO0Izo
「次はこのまま街の外周に沿ってぐるりと回って行こうかなって考えてるんですけど」
「道があればの話ですよね、それ」
実際、それぞれの地区が定めた地図上の境界線に意味はなかった。
18:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 09:40:33.51 ID:zJemO0Izo
「……ねえ、楓さん」
「はい?」
「あの、あそこに見える建物……あれってもしかして、展覧会の打ち上げ基地じゃないかしら」
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