過去ログ - 幸子「今日、私はボクを卒業します」
↓ 1- 覧 板 20
1:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:00:37.33 ID:i8kqGCrS0
事務所から外に出ると冷えた空気が頬をはたきます。
11月の末とはいえ、この冷え込みは相当です。
夜空には厚く雲がかかっていて星は隠れていますが、見上げた視線をゆっくり落としていくと、街のあちこちでイルミネーションが輝いています。
迎えの車を待ちながら、私は人工的な星の瞬きを眺めていました。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:02:59.35 ID:i8kqGCrS0
「今夜は特別冷えるなぁ」
プロデューサーさんがエアコンの設定温度をいじりつつ言います。
大丈夫だと思いますけど、運転中ですから気を付けて下さいね。
3:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:04:07.24 ID:i8kqGCrS0
「そんな主役をひとり占めなんて、プロデューサーさんは幸せ者ですね」
「確かにひとり占めはよくない。ここから走って帰るか?」
「まったく素直じゃないですねぇ」
4:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:05:32.66 ID:i8kqGCrS0
10年。プロデューサーさんのこぼした言葉を反芻しながら、ふと思います。
アイドルになってからがむしゃらに走り続けて、気が付けばもうそんなに経ったんですね。
10年という月日は様々なことを否応なく変化させます。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:08:14.06 ID:i8kqGCrS0
「さっきからぼーっとしてるがどうした?」
「ちょっと昔を思い返してただけですよ」
「昔ねぇ……幸子のボクっ娘も何だか懐かしいもんだ」
6:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:09:50.17 ID:i8kqGCrS0
「その話はいいじゃないですか。昔といえば、最近お仕事の内容も変わってきましたね」
「あぁ、体張ったものは少なくなったかな。バラエティでも司会進行のアシスタントとか増えたし」
「当時の川島さんのような?」
7:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:11:07.71 ID:i8kqGCrS0
しばらくすると、私の住むマンションが見えてきました。
車はそのまま地下へ、慣れた動きで指定の駐車スペースに停まります。
「せっかく立派な駐車場があるんだから、車買ったらどうだ? 免許持ってるだろ」
8:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:11:57.25 ID:i8kqGCrS0
「俺は『免許取ろうか悩んでるんですよ、運転するボクもカワイイでしょうからね!』の一言から仕事につなげられる敏腕Pだからな」
「スカイダイビングのときもそうでしたけど、私の会話から仕事に結び付けるの好きですね」
「どんな些細なことも聞き逃さないと言って欲しいね。で、実際買う予定もないのか?」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:13:28.22 ID:i8kqGCrS0
駐車場からエレベーターでエントランス前に出たら、カードキーを端末に差し込みます。
このマンション、エントランスと部屋の鍵が別なので少し面倒です。引っ越す気はないですけど。
寮を出て一人暮らしをすると決めてから、ママとパパが色々と都合してくれました。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:14:24.85 ID:i8kqGCrS0
エントランスからまたエレベーターに乗って上階へ。
自宅のドアに鍵を差し込んで回すと、カチャリと乾いた金属音が廊下に響きます。
「プロデューサーさん、ちょっと待ってて下さい」
11:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:15:39.70 ID:i8kqGCrS0
返事も待たずに中に入ったら、部屋全体を見回します。
さすが私、特に散らかっていない整理整頓の行き届いた完璧な部屋です。住人に似るんでしょうね。
そのままベランダ、寝室、トイレ、バスルームと確認をします。
洗濯物も干していないので、洗濯機の蓋さえ閉めたら大丈夫でしょう。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:17:09.42 ID:i8kqGCrS0
「プロデューサーさんは適当に座っててください。いま私が紅茶を淹れてあげますからね」
「いや、さっきも言ったがあがるつもりなかったからお構いなく」
「もうバッチリあがってるんですから無効ですよ。ほら、座ってください!」
13:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:18:21.99 ID:i8kqGCrS0
「何か手伝うことあるか?」
「プロデューサーさんは落ち着きがありませんね、座って待ってることもできないんですか?」
「手持無沙汰は落ち着かない性分でね。プレゼントに生花もあるだろ、お茶は後でいいから先にそいつらを何とかするぞ」
14:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:20:29.35 ID:i8kqGCrS0
「幸子は普段自炊とかするのか?」
台所のシンクで花を活けながらプロデューサーさんが訊きます。
「えぇ、寮にいる間に色々教えてもらったので一通りは作れますよ」
15:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:22:35.18 ID:i8kqGCrS0
気付けば作業が止まってしまっていて、あわてて未開封の箱を掴みます。
たまたま手に取った長方形のそれは、楓さんからの贈り物です。
幸子ちゃんと同い年のものにしてみたの――
16:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:23:15.52 ID:i8kqGCrS0
「幸子、花束は全て済んだぞ。そっちはどうだ?」
「あ、はい! まだ終わってないです!」
「数が多いから無理もないか」
17:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:25:29.14 ID:i8kqGCrS0
「お待たせしました」
「これワインじゃねーか。車だから飲めないって」
「乾杯するだけです。プロデューサーさんは飲まなくていいですから、ね!」
18:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:26:41.51 ID:i8kqGCrS0
ワインとオープナーを受け取って開けようとしますが、恐る恐るといった感じで何だか面白いです。
「なぁ……これはこの使い方で合ってる?」
19:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:28:59.66 ID:i8kqGCrS0
「では、幸子の生誕を祝して――」
20:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:30:35.91 ID:i8kqGCrS0
グラスを軽く合わせると、小さな鐘の音が静かな部屋に生まれました。僅かな、それでいて確かな余韻を残して。
再び静寂に包まれた私の部屋で、プロデューサーさんは目を細めてグラスワインを見つめています。
味覚以外の五感で味わっているような、そんな感じです。
21:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 18:32:54.37 ID:i8kqGCrS0
「ちょ、幸子は飲んでも構わないが酒そんな強くないだろ。ワイン一気にあおったら回るぞ」
その通りです。
すでに体の奥が熱くなっている感覚がします。心臓も高鳴っています。
でも、それはワインのせいだけではありません。
33Res/15.17 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。