過去ログ - P「輿水幸子は無数に存在する」
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53: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2016/12/08(木) 22:04:47.29 ID:LNih3IB00
 深夜3時頃にノックの音があった。
 足音からノックまで少し間があったので、何かしらの迷いがあったのだろう。
 俺は「どくぞ」と声をかけ、隣室へと移動した。
 再び開閉音があったのでドアの前へと戻ると。

「……もしかして、プロデューサーさん、寝てないんですか」

 ついに、向こう側から声が聞こえてきた。

 俺は感情を押し殺し、ドアへ向かって「そうだ」と短く答える。

「どうしてですか」

「ノックの音が聞こえなくなるから」

 嘘ではない。それも理由の一つだ。

「……早く諦めてください」

 はっきりとした声があった後、柔らかな足音が聞こえた。
 ベッドへと移動したのだろう。

「俺が諦めることはないよ」

 そう答えて、腰をおろす。
 
 これは単なる意地。特別な策のない、感情に訴えるだけの行動である。
 馬鹿な策かもしれない、幸子にとっては良い迷惑かもしれない。
 けれど、現状を変えるにはこれくらいしかやれることが思いつかなかった。

 それでも、進展はあった。ようやく実り始めた。
 俺の行動に意味はあったのだ。


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