1:saga
2016/12/25(日) 00:32:35.84 ID:nq/MiQjT0
速水奏がクリスマスプレゼントをもらう話です。
ド短編、地の文
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:saga
2016/12/25(日) 00:34:38.12 ID:nq/MiQjT0
肌寒さで目が覚めた。
青いカーテンを透かして、部屋中が淡いブルーに染まっている。
ベッドから起き上がると、壁に映った私の影まで、薄ぼんやり青かった。
3:saga
2016/12/25(日) 00:37:51.45 ID:nq/MiQjT0
くあ、とあくびをして、寝癖のついた髪の毛をなで付けた。
息を吸えば、ひやりとした空気が肺に入る。
確かに冬の匂いがして、ここでようやく、毛布から抜け出す。
4:ずっと名前のところにsaga入れてた[saga]
2016/12/25(日) 00:40:09.31 ID:nq/MiQjT0
なんとなく、普段は着ない、ニットのワンピースに袖を通した。
身体のラインが出にくい服を着るのは久しぶりだった。
肌寒いから、もう冬だから。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:41:21.40 ID:nq/MiQjT0
◇
チカチカと眩しいはずのイルミネーションも、さすがに朝は大人しい。
クリスマスソングも聴こえないし、人通りも少なくて、どこかシンとしている。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:43:02.29 ID:nq/MiQjT0
十五階に、プロデューサーさんのデスクがある。
私はエレベーターに乗り込んで、いつもみたいに十五階のボタンを押す。
きっと今日も泊まっているに違いない。このシーズンはどうしても忙しくなる。
7:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:44:01.00 ID:nq/MiQjT0
メリークリスマス。
そう私が言うと、デスクに突っ伏した彼はビク、と体を揺らして、「寝てません!」と叫んだ。
「おはよう。まだ誰も来てないよ。ちひろさんも」
8:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:44:55.90 ID:nq/MiQjT0
「いっそきちんと眠ったら?」
プロデューサーさんは緑茶を啜って、首を横に振った。「まだ寝れない」
「せっかくのクリスマスなのに、そんなに疲れた顔のサンタクロース、誰も喜ばないわよ」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:45:46.99 ID:nq/MiQjT0
「奏は、今日は昼過ぎにラジオの公開録音、だっけ」
「そう、それだけ。一人でも大丈夫だよ」
「なら、三十分経ったら寝ることにする。それまで、この部屋から出ていってもらえるか」
10:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:47:22.91 ID:nq/MiQjT0
ベッドを前にして、彼は私に「そういえば、今日はとても可愛い格好をしてる」と言った。
いつもは着ないような、ゆったりしたワンピース。
「子どもっぽかったかしら」と私は言った。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:48:39.15 ID:nq/MiQjT0
◇
ラジオの公録から、その後のミニサイン会まで。
私用も含めて全部終わったころには、あたりはすっかり夜を迎えていた。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:50:02.36 ID:nq/MiQjT0
「大人ども各位、プレゼントの用意はできたか」
やあやあと声が上がる。
他のプロデューサーたちも含めて、成人組はそれなりに出来上がっているらしい。
13:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:51:02.14 ID:nq/MiQjT0
みんなにプレゼントを配っている間、クリスマスについて考えていた。
サンタクロースを信じていたのはいつまでだっけ。クリスマスプレゼントを最後にもらったのはいつだっけ?
小さなころのことはまるで思い出せなくて、本当に私にも、こんなに目をキラキラさせていた頃があったのだろうか。
14:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:52:01.36 ID:nq/MiQjT0
配り終わったころに、文香に話しかけられた。「今日は、こちら側だったんですね」
「文香もね。配ってたんでしょう、お手製の栞」
「ええ……まぁ。みなさん、喜んでくれました……しかし、奏さんは、まだ」
15:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:53:37.48 ID:nq/MiQjT0
「私のプレゼント、子ども向けばかりだけれど」
「良いのです……私も、少し子どもっぽいかもしれませんから」
こちらです、と文香が取り出したのは、小さなリボンが施された栞だった。
16:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:54:26.21 ID:nq/MiQjT0
「それでは……私はそろそろ帰ります……」
「明日も仕事?」
「はい、年末に向けて……」
17:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:55:26.17 ID:nq/MiQjT0
◇
外に出ると、朝と違ってイルミネーションがわらわらと瞬いていた。
手を繋いだカップルがとにかく多くて、帰り道が憂鬱になりそうだ。
18:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:58:50.27 ID:nq/MiQjT0
「おい、奏!」と、ビルの中から赤い顔をしたプロデューサーさんが飛び出してきた。
彼は息を切らしていた。
どうしたの、と聞く前に、ぎゅーっと抱きしめられる。
19:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 00:59:46.09 ID:nq/MiQjT0
「そこに直りなさい」
そういうと、彼は冷たいアスファルトの上に正座をする。「酔いは醒めたかしら」
「はい、もうすっかり。抱きしめちゃってすみません」
20:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 01:01:58.73 ID:nq/MiQjT0
「そう、キャラだよ、そんなもの誰かに勝手に思わせていればいいんだ。気負う必要なんてない」
「突然どうしたの、それに……どういう意味?」
「奏のことだよ」
21:名無しNIPPER[saga]
2016/12/25(日) 01:02:51.32 ID:nq/MiQjT0
違うんだ、違うんだよ、と彼は呻いた。
大人っぽい、は褒め言葉で、子どもっぽいはそうではない。
なら、私はみんなの期待通りに大人のフリをするだけだよ。
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