過去ログ - 茄子「にんじんびーむ♪」
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14:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:51:02.57 ID:tFwGSLOi0
 クリスマスパーティが終わって、後片付けも済むころには、すっかり夜も遅くなっていた。

 ちっちゃいプロデューサーがどこで寝るかという問題は事務所内抗争にまで発展しそうな案件だったけれど、奈々お姉ちゃん家で寝ると言い残して電池切れになったプロデューサーを前に、さすがのみんなも不承不承、それぞれの帰途に就いたのだけど――

 私はどうしても気になることがあって、事務所の門のところで踵を返した。

 ――じゃあ、僕、将来はプロデューサーになる!

 あの微笑ましくて、この上ない愛らしい宣言は、事務所のアイドルにとっては喜ばしいものだった。少なくとも私は、舞い上がってついサインしてしまうくらいに嬉しかった。ほかのみんなだってそのはずだ。舞ちゃんだって、嬉しかったからこそ、そのぶん悔しかったんだろうし。

 でもあの時、あの場所で、一人だけ笑っていないアイドルがいた。たぶん私しか気づいてないと思うし、そもそも私でさえ見間違いかなにかだと思っているけど……それでも何か妙な胸騒ぎがして、確かめずにはいられなかった。

 事務所には、まだ人が残っていた。奈々さんと、プロデューサーだ。

 プロデューサーはすっかり寝ていた。舞ちゃんのサインが書かれたほっぺたを、奈々さんの太ももにくっつけて、すやすやと寝息を立てている。そんなプロデューサーを、うつむいた奈々さんがそっと撫でていた。

奈々
「……どうかしたんですか、凛ちゃん」

 奈々さんが顔を上げた。にこやかな笑みを浮かべている。なのに、背筋が寒くなる。

 目が、笑っていなかった。プロデューサーが、将来の夢を宣言した時と、同じ目だった。やっぱり見間違いじゃなかった。

奈々
「用がないなら、帰ったほうがいいですよ? こんな時間ですし」


「奈々さんこそ、プロデューサーもいるんだし、早く帰ったほうがいいと思うけど」

奈々
「そうですね。でも、ナナはもう少し、ここで待たなければならないので」


「……タクシーを呼んだんですか?」

奈々
「いいえ。イヴちゃんを待ってるんです」


「こんな遅くに……?」

奈々
「時間なんて関係ありませんよ。どうでもいいことです。大切なのは、10歳のプロデューサーさんがここにいるということだけです」

 奈々さんは、本当に愛おしそうな手つきで、プロデューサーを撫でていた。感情の見えない目と、口元に張り付いた笑みは、見ただけでまともじゃないとわかるのに、その左手だけは人間らしかった。

 ふと、気づく。奈々さんの右手側。ソファに置かれた、見慣れない物体に。


「それ、なんですか?」

奈々
「……何に見えます?」

 奈々さんはよくわからないそれを掲げて見せた。安っぽいデザインのそれは、プラスチックでできた、ニンジンのおもちゃに見えた。赤ちゃんが握って音が出るような、そんなおもちゃ。でも違った。奈々さんはそのニンジンを、拳銃と同じ握り方で持っていた。



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