過去ログ - 茄子「にんじんびーむ♪」
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16:名無しNIPPER[saga]
2016/12/31(土) 13:52:24.74 ID:tFwGSLOi0
 逃げる間もなかった。襟首をつかまれて、引っ張られる。生地が破れる音だけが聞こえて、フリーフォールと似たような感覚に襲われた。ただし落ちるのではなく、真横だった。

 自分が投げられたのだと理解したのは、事務所の床に横たわって、いくつもの缶ジュースが通路に転がっているのを見た時だ。どうやら冷蔵庫にぶつけられたらしい。横になった視界の中で、ナナさんが歩いてくる。身体がどうにも動かない。奈々さんが足を振り上げた。小さい靴底が見えて、次の瞬間に目の前のコーヒー缶が潰れた。金属が一瞬でひしゃげて、ブラックコーヒーが当たり一面にぶちまけられた。

奈々
「……大人しくしててくださいね、凛ちゃん。次に邪魔をしたら、手か足がこうなりますから」

 私はうなずいた。声も出せなかったのだ。自分が息をしているのかもわからない。怖くてたまらない。

 視界がにじんできた。泣いている。怖くて、悔しくて、情けなくて、痛くて、涙が止まらない。

 私はどうすればいんだろう。プロデューサーはどうなるんだろう。誰でもいい。助けてほしい。なんでもいいから、なんでもするから。プロデューサーを助けて。奈々さんを止めて。お願い、誰か――!

イヴ
「うぅ〜さぶいさぶい。日本もやっぱり冷えますねぇ〜」

 この場にまったくそぐわない、明るい声がした。イヴさんは綺麗な髪をきらきらさせながら、床に散らばった缶ジュースを見つけると、もったいないもったいないと言いながらかき集め、集めたそれをテーブルに置いた。それから私を抱き起して、手近なイスに座らせてくれた。お礼を言いたかったけど、まだ声が出ない。身体が痛い。どこか骨が折れているのかもしれないが、骨折した経験がないからよくわからなかった。

イヴ
「疲れたカラダには甘いもの。冷えたお肌には温かいもの。やはりここはホットココアちゃんしかありませんねぇ」

 イヴさんはココアの缶をよく振って、紙コップに中身を注ぐと、電子レンジの元へ急いだ。

奈々
「お帰りなさい、イブちゃん」

イヴ
「はーい、ただいまです、奈々さん〜。こんなに寒いのに、ホントに待ってたんですねぇ〜」

 温度など感じられない奈々さんの声をよそに、イヴさんはココアが待ちきれないのか、電子レンジの中をじっと見つめている。

奈々
「その口ぶりだと、どうしてナナがここにいるのか、わかってるみたいですね」

イヴ
「それはもちろん。どうして私が16年前のプロデューサーを、現代に連れてきたか、ですよね?」

奈々
「話が早くて助かります。さあ、話してください。いまならあんまり痛めつけずに殺してあげますから」

イヴ
「そうですねぇ。どこから話せばいいんでしょう? あ、そうだ凛ちゃん、凛ちゃんもいりますか? あったかいココア」

 私は答えようとして、せき込んだ。ごぼりと胸の奥から何かが出てくる。せきが止まらない。口からぼたぼたと温かいものがあふれ出す。吐いてしまったのかと思って、口を手でぬぐった。手のひらがぬるぬるなった。

 血だった。頭の中が真っ白になる。自分の意志とは関係なく、身体ががたがたと震え始める。

イヴ
「あー、これは刺さってますねぇ。奈々さん、楽にしてあげたほうがいいんじゃないですか?」

奈々
「放っておいても平気ですよ。凛ちゃんは何があっても死にませんでしたし」

イヴ
「そうらしいですね。でも仲間が苦しんでるのを横に、のほほーんとココアを飲むのは私としても抵抗があるといいますか。正直なところ、奈々さんが何をどこまでできるのか見ておきたいというか……そのニンジンって、アレですよね? ウサミン星の技術が使われてますよね?」

奈々
「ナナが手の内を見せるとでも?」

イヴ
「見せますよ。だって奈々さんは確認しないといけないんですよね。このままではプロデューサーさんが不幸になるとわかっているにもかかわらず、どうして改変した過去を元に戻したのか。この現在が、プロデューサーさんが幸せになるために必要でないと確信できないかぎり、そのニンジンを使うことはできない。そうですよね?」

 奈々さんは押し黙って、私を見た。ふっとため息のようなものをつくと、おもちゃのニンジンを私に向ける。
 やめてという言葉の代わりに血を吐いた。奈々さんはためらいなく引き金を引いた。


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