過去ログ - 終わらない物語が嫌いな僕と余命が短い女の子の話
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22: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/07(土) 23:14:41.24 ID:6hLdimli0
なんとなく想像はついていた。最初に彼女のベッド付近を見たとき、お見舞いの品が見受けられなかったように、今日もそのベッドに本以外のものは見当たらなかったから。しかし、気の利いた言葉が出ず、言い淀んでしまった僕に気がついたのか「あ、ごめんなさい。暗い話をしてしまって。持ってきてもらった本、見せてもらっていいですか?」と言った。気を遣わせてしまって申し訳ないが、話題を変えてくれた事はありがたかった。僕はすぐさま袋から本を取り出し、彼女に見せた。

 「比較的短くて、完結済みのやつを持ってきたんだけど、どうかな」
 表紙をみた彼女は「あ、これ・・・」と呟いた。
 それから顔をあげ、「私の好きな漫画家さんの作品です!」と言って彼女は自分のベッドから一冊の漫画を持ってきた。その本は僕が今日持ってきた本とは別だったが、表紙には確かに同じ作者名が書かれていた。


23: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/07(土) 23:21:20.10 ID:6hLdimli0
それは以前友人に薦められたことのある漫画のひとつだった。当時はまだ完結していなかったため読む気にならず、ネットで適当にあらすじを見て読んだことを装って返した訳だが。
 「ああ、友達に借りたことがあるよ。今は全然知らないけど。完結したの?」
 「いえ、まだです。今は主人公の修行編です」まだ終わっていないのか。僕が借りたのは6年前だぞ。そうして彼女は聞いてもいないのに好きなキャラクターのことやおすすめの巻を僕に紹介した。
 大して真面目に聞いていなかったが、よく耳をすませてみると、
 「私的には○○と△△はお互いに好きなんじゃないかと思うんですよねー」
以下略



24: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/07(土) 23:29:40.47 ID:6hLdimli0
正直なところ、僕はそういった、どうなるかわからないものについて予想されるのが苦手だった。結末なんて作者しかわからないんだし、あれこれと考えるのは面倒くさいし、回答を求めないで欲しい。つくづく僕は嫌なやつだと思った。
 相槌も適当にうって、僕は大学の宿題があったことをぼんやり思い出した。まだ期間はあるが、これを理由に帰ろうと思った。
 「そろそろ家に帰るね」
 「え、香子さんに会わなくていいんですか」
 「うん、また来るし」
以下略



25: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/07(土) 23:34:42.16 ID:6hLdimli0
どれくらいの人が見てくれてるのかわからないけど、ゆっくり書き込んでいく予定なので多分期間が長くなると思います


26: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/07(土) 23:42:20.96 ID:6hLdimli0
「わかりました。香子さんには伝えておきますね」
 そして僕は病室をあとにした。長い廊下を歩いていると、偶然母を見かけた。良かった、帰る前に会えた。すると、母も僕に気づいたのか、ひらひらと手を振った。
「今帰るところだったんだ」
「あら、そうなの。芽衣ちゃんと話せた?」
「うん」
以下略



27: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/08(日) 09:57:08.44 ID:O1Z9DSgO0
余命。
 
 余命というか、命について深く考えたことがなかった。どこか自分は特別で、ニュースで見るような通り魔に襲われる事も、交通事故に巻き込まれる事はないだろうと考えていたからだ。母も父も生きていて、祖母も祖父も生きている。『死』という存在があまりに遠く感じられたのだ。彼女はそんなに重い病気だったのか。確かに最初は病弱そうに見えたが、彼女と話すうちにそんな印象は薄れていた。けれどよく考えてみれば、花の女子高生が『高校には行ってないも同然』というのだから大きい病気なんだろう。


28: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/08(日) 09:58:21.11 ID:O1Z9DSgO0
余命。
 
 余命というか、命について深く考えたことがなかった。どこか自分は特別で、ニュースで見るような通り魔に襲われる事も、交通事故に巻き込まれる事はないだろうと考えていたからだ。母も父も生きていて、祖母も祖父も生きている。『死』という存在があまりに遠く感じられたのだ。彼女はそんなに重い病気だったのか。確かに最初は病弱そうに見えたが、彼女と話すうちにそんな印象は薄れていた。けれどよく考えてみれば、花の女子高生が『高校には行ってないも同然』というのだから大きい病気なんだろう。


29: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/08(日) 10:00:08.12 ID:O1Z9DSgO0
連投すいません



30: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/08(日) 10:14:43.03 ID:O1Z9DSgO0
僕がもし余命三ヶ月だったとしたら、絶対に未完結の小説は読まないだろう。最終回はどうなるんだ、と思い残したまま死にたくないから。そんなことを考えながら自宅へ帰った。家のカレンダーを見て、今が8月の末だということを確認した。
 彼女の余命はどうすることもできない。だけど、せめて僕よりも年下のあの子に、僕に笑いかけてくれたあの子に、両親と複雑な関係にありそうなあの子に、幸せを感じて欲しいと思った。


31: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/08(日) 10:19:50.59 ID:O1Z9DSgO0
 9月。前に病院に訪れたのが8月の末だったから、一週間ちょっと経っている。僕は一気に大学のレポートを終わらせ、彼女に何ができるのかを考えてみた。
 彼女は本が好きだから、本を持って行こう。たしか以前彼女が僕に見せた漫画の続きが売っていたはずだ。それから彼女用のお見舞いの品を。それから・・・なんだ。15歳の女の子が喜ぶものなんか知らないぞ。それでも本があればとりあえずいいだろう。
 そして三度目の病院訪問をした。



32: ◆eZMycVsOYY[sage saga]
2017/01/08(日) 12:25:42.25 ID:O1Z9DSgO0
病室に入ると、母と彼女がいた。
 「久しぶり」
 「うん、久しぶりね。忙しかったの?」
 「まあ、ちょっとね」そう言いながら母にお見舞いの品を渡した。
 それから彼女の方を見て、彼女用のお見舞いの品と買ってきた漫画を差し出した。
以下略



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