3:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/08(日) 15:15:18.53 ID:3OYwXlIW0
値段の割には十分な刺激と快感を得られたのだから、一応成功ということにしておきたい。
いや、そうでなくちゃ色々と困る。
屈み込んだ状態で割れた破片をゆっくりと一つずつ回収しながら、湯呑みが割れた瞬間を脳内で繰り返し再生していると、奇妙な笑みがこぼれてくる。
ああ──やはり大事にしていた分、壊れたときの喜びもひとしおだ。
両親が久しぶりに夫婦水入らずの旅行に出かけると聞いたとき、私はある計画を立てた。
それは以前、家族旅行に出かけた際、お土産として購入してもらった備前焼の湯呑みを秘密裏に破壊する、という計画だ。
おそらく傍から見たとすれば、私のしていることは変人の域を超えた忌むべき行為なのだろう。
なにせこの湯呑みは、父と母が駄々をこねる私にくれた最初のプレゼントなのだから。
大切で、二つとない宝物。
でもそれは私にとってであって、両親からしてみれば、この湯呑みに対しての想い入れなんて皆無といっていい。
何故なら父も母も、この湯呑みをいつどこで買ったのかすら覚えていないからだ。
人の記憶なんて、所詮そんなもの。
誰かにとっては失いたくないかけがえのないものだとしても、他人からすればなんの変哲もないガラクタにしか見えないことだってある。
だからこの湯呑みは壊すことが許される。
これは私だけの宝物だった。
壊されて悲しみを覚える人間は、私一人しかいない。
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