過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
1- 20
128: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:57:29.96 ID:fiJYedV+0
「母は、籠の鳥であることに苦悩していた」

 千反田と視線が交わる。憂愁の色合い濃いその瞳が、俺に問うているように思われた。

ああ願わくは我もまた、自由の空に生きんとて。
以下略



129: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:59:21.77 ID:fiJYedV+0
「お前の父親があの絵から与えられたものは、ここまで俺が話した内容だけでは、確固たる決意を抱かせる根拠にはなりえなかっただろう。

過去の後ろめたさから導出した当て推量程度にしか考えなかったかもしれない。

しかし、気づいてしまったんだ。言葉では語られぬはずの物語の内に潜められた、たった三文字のメッセージに」
以下略



130: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:00:09.76 ID:fiJYedV+0
 メッセージ? と千反田が繰り返す。

「トエル。これは雅号なんかではなかったんだ。この言葉の意味を知り、お前の父親は確信してしまったかもしれない。

妻は、やはり後悔していたんだ。自分の夢を犠牲にしてしまったことを、そして驚愕してしまったのかもしれないな。
以下略



131: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:00:51.85 ID:fiJYedV+0
「アルファベットにするだけでいい。『To eru』えるに」

 千反田の伯父である関谷純の氷菓と似ている。

確認したことはなかったが、ひょっとすれば関谷純が千反田の母親の兄なのかもしれない。
以下略



132: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:01:29.11 ID:fiJYedV+0
「母は、あの絵をわたしへ」

 千反田が独りごちる。どこかで、蛙の野太い鳴き声が聞こえた。

腕時計にちらと目をやると、時刻は七時をまわろうとしている。
以下略



133: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:01:57.19 ID:fiJYedV+0
「俺がお前の母親に伝えますと言ったのはこのことだ。

額縁に収められた物語について、俺が何を語ろうとそれはお前の母親の言うとおり、俺が感じたものにすぎない。

あとはお前がそれをどう受け取るかにかかっている」
以下略



134: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:02:33.04 ID:fiJYedV+0
 夕焼け空が、艶かしい色合いへと移り変わっていく。

夜の闇が、その異なる色相を幾重にも別けて積み重なっている。

待ちかねた星々がまばたきを始めた。このような時間帯をトワイライトタイムと呼ぶらしい。
以下略



135: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:03:07.91 ID:fiJYedV+0
「けどな千反田、お前の父親の解釈だけは、さっきお前の母親によって否定されてしまったんだ。

お前の父親は母親の過去に引け目を感じすぎているのかもしれない。

その過剰な憐憫の眼差しが作品を鑑賞するための審美眼を曇らせてしまっていた。
以下略



136: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:03:42.04 ID:fiJYedV+0
「母は、わたしに幸せでありなさいと言ってくれました」

 両の手を胸の前で重ね合わせた千反田の姿は、まるで祈りを捧げているかのようであった。

その瞳が細められ、千反田があどけなく相好を崩す。
以下略



137: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 21:04:20.77 ID:fiJYedV+0
「それにお前の父親は自由に生きろ、好きな道を選べとお前に言ったんだよな。だったら……」

 これ以上は俺の語ることじゃない気がした。

今日の俺は、やはりどこかおかしかったのかもしれない。
以下略



146Res/56.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice