過去ログ - あなたの物語を。トエル 『氷菓』
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63: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:58:57.51 ID:fiJYedV+0
千反田の意見はもっともなものだった。けれどそれにしたって面映い。
俺は顔を背け、気恥ずかしさを誤魔化そうともう一度じっと絵を見つめる。
64: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 19:59:51.93 ID:fiJYedV+0
一人の女の子を乗せた小舟が水面を漂っている。年の頃は恐らく四、五歳ぐらいだろう。
水面には散らばるように波紋がたち、ぼんやりとした光の粒が反射している。
女の子はこちらには背を向けていて、その表情は窺い知れず、
65: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:01:11.79 ID:fiJYedV+0
「なんだか魅入ってしまいますね」
千反田が指を指し、そう呟く。確かにそうかもしれない。
左右の絵を比較してみると、左の方が技術的には優れているように思えたし、
66: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:01:46.24 ID:fiJYedV+0
対して右の絵には、そのような綿密な計画性というよりも感覚的と表現すればいいのだろうか?
こう見せたい、こう感じさせたいという厳密な狙いがあるというものではなく、
作者がその時期、若しくはその瞬間に心の中に抱いていた感覚、想いの全てを筆に任せ、
67: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:02:39.96 ID:fiJYedV+0
「左が技巧的、右が感覚的」
そんなことを言い条、俺は両者にあるスタイルの違いとは異なる
もっと表面的な何かの差異について違和感をおぼえていた。
68: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:03:19.68 ID:fiJYedV+0
「トエル」
思わず声に出していた。
「トエル?」
69: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:05:08.44 ID:fiJYedV+0
「雅号でしょうか?」
「雅号? ペンネームのようなものか?」
今度は千反田が首を縦に振る番だった。
70: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:05:47.36 ID:fiJYedV+0
「なあ千反田。お前の母親は昔は随分と真剣に絵を描いていたりしたのか?」
「はっきりとした学校名は忘れましたが、
美術大学へ通っていたというお話を随分前にされていたような記憶があります」
71: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:07:09.16 ID:fiJYedV+0
「折木くん」突然視界が覆われた。
「人様にじっと鑑賞してもらえるほど、立派な作品じゃないと考えているの」
されるがままに、髪の毛をゴシゴシと拭かれる。
72: ◆KM6w9UgQ1k[saga sage]
2017/01/09(月) 20:07:46.47 ID:fiJYedV+0
「える。ついでにお湯を沸かしてきたの。
身体を温めるぐらいでいいから浸かってきなさい。
折木くんもどうかしら?」
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